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281.知らせ

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 するとルドヴィクがそのタイミングを待っていたかのように口を開いた。

「………その事だが、あなたに知らせておきたい事がある」

 じっとアリーチェを見つめたルドヴィクの表情は深刻そうだった。

「知らせておきたい事、ですか?」

 ルドヴィクの様子に、アリーチェは不安を感じ、形の良いはっきりとした眉を歪めた。
 もしかしたらイザイアで何か起きたのだろうか。
 それとも、ブロンザルドにいるパトリスの身に何かあったのだろうか。
良い知らせとも悪い知らせとも分からないのに、知らず知らずのうちに悪い方へと考えている自分に気がついた。
するとその不安気なアリーチェの様子に気がついたルドヴィクが穏やかに目を細める。

「………大丈夫だ。あなたにとって、悪い事ではない。………いや、寧ろそれが真実ならば、これ以上ないくらいに喜ばしい事だと思う」
「喜ばしい………?それは一体………?」

今回の事件で本来裁かれるべきだった黒幕の二人が然るべき罰を受け、自分はルドヴィクと想いが通じたというのに、それ以上喜ばしい事などあるのだろうか。
全く見当がつかず、アリーチェは首を傾げた。

「………とにかく、これからある場所に私と共に行ってもらいたい。全ては、そこで話をしよう」

そう言ってルドヴィクは柔らかな微笑みを浮かべると、アリーチェを正面から見据える。
彼の穏やかな表情を見ていると、先程までの不安は一気に消え去り、不思議と大丈夫だという気持ちになってきた。

「………分かりました。参りましょう」

アリーチェが軽く頷くと、ルドヴィクもそれに倣って頷いた。
そして馬車の壁を叩いて馬丁に合図を送った。
僅かな間を置いて、ゆっくりと馬車が動き出した。

「到着までは時間がかかる。………朝から緊張しっぱなしだっただろう?少し、休むと良い」
「大丈夫ですわ。気が休まらないことには慣れてますもの」

伊達に牢獄暮らしをしてませんから、と冗談めかして付け加えると、ルドヴィクは一瞬、辛そうな表情を浮かべ、それから苦しそうに笑った。

「………すまない」
「ルドヴィク様が謝罪なさることはありませんわ!全ては前ブロンザルド国王のした事ですし………。それにあの一件があったからこそ、わたくしは今こうしてこの場に居られるのですもの。………万が一そうでなくとも、きっとルドヴィク様が救い出して下さった気がしますけれど………」

アリーチェがはにかみながら笑顔を向けると、ルドヴィクは照れくさそうに、唇を噛み締めた。

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