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282.ジルベールの手柄

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ルドヴィクが馬車がどこへ向かうのかも伝えたくない様子だったため、アリーチェは黙ったまま窓の外から見える景色を見つめていた。
ゆっくりと速度を上げた馬車は、王都の中心部を抜け、郊外へと向かっているようだった。
王都中心部に比べると復興が遅れている郊外にも、真新しい建物がそこかしこに見受けられるが、やはりまだ更地のままの場所も目に付いた。
それでもあの日、何もかもを失った街が、そしてカヴァニスの民が少しずつ前に進もうとしているのが街の様子から見て取れた。

「本当に、皆逞しい事だ。あんな目に遭ったというのに、その絶望すらも自らを奮い立たせる力へと変えて………。私も見習わねばならないな」

アリーチェと同じように、馬車の窓から外の様子を眺めていたルドヴィクが、ぽつりと呟いた。

「………ふふ。カヴァニスの民は皆、勤勉で努力家ですもの。…………でもそんな彼らに希望の種を与えてくださったのは、ルドヴィク様ですわ」

穏やかな表情で微笑むと、ルドヴィクは照れくさそうに俯いた。

「………希望を与えられるような事は何もしていない。私はただ、あなたを悲しませたくないという一心で、ジルベールをカヴァニスここに送り込んだだけだからな。あのガイオという男を見つけてきたのも全て、ジルベールの手柄だ。感謝するのは、あいつにしてやって欲しい」

初めのうちは、ただの調子の良い騎士だと思っていたジルベールが見えない所でカヴァニスの復興に尽力し、救ってくれていたという事実は意外だったが、アリーチェは僅かに目を伏せ、微笑みをうかべた。

「………そう言えば、あのガイオという青年の処遇はどうなさるおつもりなのですか?」

ティルゲルもまさか自分の駒として飼っていた元孤児に裏切られるとは思っても見なかった様子だった。
彼がいなければ、もしかしたら民意を動かすことは出来なかったかもしれない。
しかしその一方で、いくら彼の意志ではなかったと言っても、セヴランとティルゲルの書簡のやり取りを取り持った彼は、反逆罪で裁かれるべき人間だという事実も残る。

「………それを決めるのは私ではない。今はとりあえずジルベールが屋敷に軟禁しているが、それもこれから考えていかねばなるまい」

ルドヴィクが顔を上げたのと同時に、馬車はゆっくりと速度を落としたかと思うと、ある建物の前で完全に停車した。

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