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210.セヴランの最期

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「………………」

パトリスは沈黙を守ったまま、己の顔が映る白銀の刃を見つめる。
ずっしりとした重さは、長い間幽閉されていたパトリスの腕力と握力では、握っているだけでも辛そうだった。

ルドヴィクは静かに手を離すと、パトリスに向かって静かに頷いた。
それはまるで、『大丈夫だ』とパトリスを励ましているようにアリーチェの目には映った。

その光景を見て、ふと兄の言葉がアリーチェの脳裏に浮かび上がった。

「騎士が自らの剣を貸し与えるのは、その相手を心から信頼しているという証なんだ」

あれは、騎士達の鍛錬場に兄を訪ねていった時に聞いた言葉だったのだろうか。
今はもう朧げにしか覚えていないが、確かに兄はそう教えてくれた。
それが真実ならば、ルドヴィクはパトリスの事を深く信頼しているということになる。
まだ不明確なことは多いが、確かに二人の間には目に見えない、絆のようなものを感じられる気がした。

どれくらいの時間が経っただろうか。
パトリスは覚悟を決めたように、ゆっくりと剣を構えた。

「………は!下賤の王に唆され、私を殺すか………」

消え入りそうなほど弱々しい声が、悪態をつく。
パトリスはそんな父親に向かい、微かに微笑んだ。

「いいえ。これは、私自身の意思ですることです。………父上………私は沢山の人を不幸にしたあなたを、憎んでいます。それでもいつかその過ちを認めてくださることを、密かに願っていました」

柔らかだが芯のある、はっきりとした口調だった。
それは、嘘偽りのない、パトリスがセヴランに対して抱いていた気持ちなのだろう。

「しかし………あなたの心が変わることはなかった。………残念です」

パトリスは精一杯の力で、剣を握りしめた。

「………私は、絶対にあなたのような王にはなりません。ブロンザルドを生まれ変わらせ、平和で豊かな………カヴァニスのような国にしたいと思っています。………ですから、地獄の奥底から私の造る国を見上げていて下さい」

死を目前にした父親に掛けるには、あまりにも酷な告白だったが、セヴランはたった一人の我が子の言葉を、表情一つ変えずに聞いていた。
そして、パトリスがルドヴィクの剣を振り上げるのを見、ゆっくりとその両目を閉じた。

「…………っ!」

鈍い音が響き、セヴランはその衝撃に小さな悲鳴を上げたかと思うと、大きく上下を繰り返していた胸の動きが、止まった。
それが、ブロンザルド国王セヴラン・ブロンザルドの最期だった。

床にじわりと新たな血が滲み出していく様を、アリーチェは静かに見つめていた。
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