隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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「………よくやった」

 しん、と静まり返った室内で、セヴランの胸を貫いた剣を握りしめたまま俯き、小刻みに震えるパトリスに、最初に声を掛けたのはルドヴィクだった。
 その瞬間、セヴランの心臓とともに貫かれた魔石の残骸が、セヴランの胸の上から転がり落ちたかと思うと床にぶつかって弾け、粉々になって空気に溶けていく。
 それは、まるで悪夢が終わったという合図のようだった。

 険しい顔で剣を構えていたクロードは安堵の表情を浮かべて、手にしていた剣を鞘へとしまう。
 テレーゼは涙を浮かべ、慌てたようにパトリスの許へと駆け寄り、パトリスを抱き締めた。

「…………っ」

 小さな嗚咽が、パトリスの口から漏れた。
 パトリスは自分が決めた通り、自らの手で父親を止めた。
 しかし、それは王太子としてのパトリスの役割だったが、今は純粋に父親の死を悲しむ子として、泣いているのだろう。

 いつか父から褒めて貰えるように、認めて貰えるようにと努力し続けてきた青年は、終ぞ父から優しい言葉を掛けて貰うことは出来なかった。
 だが結果的に、その血の滲むような努力は彼の力となり、追い続けた父親など足元にも及ばないような、立派な王になるだろう。
 血溜まりに沈み段々と冷たくなっていくセヴランの傍らで、泣き崩れるパトリスとそんなパトリスにそっと寄り添うテレーゼを見守るアリーチェはそう確信した。

「………終わったな」

 いつの間にかアリーチェの隣に、ルドヴィクが立っていた。
 彫刻のように美しい彼の顔には、晴れやかな表情が浮かんでいた。
 彼もまた、長い間心に暗い影を落としていた兄・シャルルの仇を取れたことで、幾らか気分がいいのだろう。

「………はい」

 ルドヴィクの呟きに、アリーチェはゆっくりと頷く。
 穏やかな微笑みを浮かべているルドヴィクを見ると、言いしれない安心感がアリーチェの心を満たしていった。

 ふと窓の外を見ると、燃えるような朱い夕日が、西の空を見事に染め上げていた。

 長い長い一日が、ようやく終わろうとしている。
 全てが終わったら、何もかも話してくれると、ルドヴィクは約束してくれた。
 セヴランを倒した今こそ、約束の時なのだろう。
 アリーチェは深く息を吸い込み、昂った気持ちを落ち着かせるのだった。
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