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187.見放された王

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「………お前が正しいと言えば、どんなに卑劣で野蛮な行いも、正しくなると言いたいのか?」

セヴランの首筋にぴたりと剣先を突きつけたまま微動だにせず、ルドヴィクは尋ねた。

「当たり前だ!私は王だぞ?!私の考えは、国民の総意なのだ!」

それはあまりにも滅茶苦茶な理論だったが、セヴラン自身は本気でそう信じているようだった。

「…………実に傲慢で愚かな事だな。国王は民の為に国を治める存在であって、国王の為に国と民が存在しているわけではない。国王は神ではないし、どんな聖君であっても神にはなり得ない。増してお前のような愚物が神のように振る舞えるなどと、本気で信じているのならば、滑稽としか言いようがないな」

小さく溜息を吐いたルドヴィクは、ゆっくりと宰相やブロンザルド貴族達の方に顔だけを向けた。

「一応確認しておくが、私が今、セヴランこの男の首を撥ねてしまっても、問題はないか?」

尋ねるのと同時に、セヴランの首筋に突き付けた剣の先端を僅かに移動させる。
するとセヴランの首には赤い線が一筋、浮かび上がる。

「……………っ」

突然のルドヴィクからの質問に、戸惑ったように視線を彷徨わせたブロンザルド宰相は、是でも非でもなく、黙ったまま頷いた。

「………だそうだぞ、ブロンザルド王。お前は自らの欲の為に偉大なる神をも貶めようとしたのだから、臣民に見放されても当然だろう」

宰相の反応を見てから、ルドヴィクは宣言でもするかのようにセヴランに向かって声をあげた。

「何だと…………っ!」

激昂したセヴランが、またもやヒステリックに喚く。すると彼が身に着けた魔石が、ぼうっと不気味な光を帯びる。
魔石がセヴランの感情に共鳴しているのか、それとも魔石がセヴランを興奮させているのかは定かではないが、やはりセヴランは確実に魔石の影響を受けているようだった。

「………本当に単調で、芸のない男だ。ただ喚くことしか出来ないお前など、この腕の動き一本で簡単に終わりにすることが出来る。………だが………」

さして興味もない、とでも言うようにルドヴィクは固い表情のまま、再びセヴランに視線を戻した。

「………最後にもう一つだけ、お前に訊かなければならない事がある」

躊躇いとも、覚悟とも取れるような間を置き、それから唐突にそう宣言をする形の良いルドヴィクの唇が、ほんの少し両脇を吊り上げる。
深いエメラルド色の隻眼は、恐ろしい程に冷たく、鋭い光を帯びているのだった。
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