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188.もう一つの真実

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「…………」

セヴランはルドヴィクを睨みつけたまま押し黙る。
その様子は今度は一体何を言い出すのかと警戒しているようにも見えた。

「今から十年前、イザイアの王太子の誕生日を祝う席での出来事について、何か言うことはないか?」

ルドヴィクの口から飛び出した意外な問い掛けに、アリーチェは僅かに目を見開いた。
イザイアの王太子ーーーそれがルドヴィクの亡き兄、シャルルの事だというのはすぐに分かったが、何故今ここで彼の話題を口にするのだろうか。

(確か、ルドヴィク様のお兄様は暗殺されたと聞いたけれど………)

あの日の夜、苦く苦しい記憶を、包み隠さず話してくれたルドヴィクを思い出す。
心から慕っていた異母兄を、眼の前で失うことになった忌まわしい日。それがシャルル王太子の十八歳の誕生日ではなかっただろうか。

アリーチェが必死にそんな事を考えていると、突然セヴランはかっと目を見開き、笑いだした。

「…………何を言い出すかと思えば…………!あの小賢しい坊主の事か!」

会話こそ成立しているが、セヴランの様子はどんどんおかしくなっていく。
まるで、この世ならざるものに取り憑かれているような、恐ろしささえも感じるような禍々しさだった。

「あの坊主は無能のイザイア王と違い、妙に勘が鋭く、腹立たしい程に良くできた人間だったな………」
「………兄上への、お前の評価などは訊いていないし、聞きたくもない。お前は、訊かれたことにのみ答えればいい」

セヴランを、たった一つの眼で睨み付けるルドヴィクの表情からは、何も読み取ることは出来なかった。

「何だ?卑しい貴様でも、半分だけ血の繋がった兄が恋しかったのか?それとも、正当な王位継承を主張するために、仇討ちでもするつもりか?………ご苦労な事だな」
「………そんなことはどうでもいい。是か非かを答えろと言っているんだ」

苛立たしげにするルドヴィクを見ると、セヴランは実に楽しそうにくつくつと不気味な笑い声を上げた。
そしてその笑いは段々と大きくなり、同時にセヴランの灰色の双眸がぎょろりと、まるで別の生き物のように動いてルドヴィクを捉えた。

「貴様如きが、この私に命令するとは…………っ!貴様も貴様の兄同様に、殺してやろうか…………?」

狂気の入り混じった、ぞくりとするような笑みを浮かべたセヴランは、自身の胸元を飾る、鮮血よりも紅い色をした魔石に、ゆっくりと手を添えた。
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