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177.堕ちた国王(1)

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 魔石の鉱脈はともかくとして、何故そこにアリーチェの名が出てくるのかと、ブロンザルドの貴族達は皆怪訝そうに顔を顰めていたが、セヴランもティルゲルも、全く気がついてはいないようだった。

「………そう言えば、パトリスの妃にアリーチェ王女をと強く望まれたのは、セヴラン様でしたわね」

 相変わらず淡々とした口調を崩さないテレーゼが、僅かに口元を緩めたことにアリーチェは気がついた。

 まさか。

 テレーゼの一瞬の表情に、アリーチェはある仮定を導き出し、目を見開いた。
 聡明なテレーゼのことだ。ここでアリーチェ自分の名が出てきたことに不自然さを感じるだろう。
 同時に、そこで何故名前が出たのかを考えれば、必然的にに辿り着くに違いなかった。
 だが、テレーゼは全く動じることなく、平静さを保っていた。

「これほどまでに美しく、高貴な血を持つ若い娘は大陸中探しても見つかるまい。だからこそ…………」

そこで一旦言葉を切ると、セヴランはねっとりと絡みつくような視線をアリーチェに向けた。
ルドヴィクの逞しい体が盾になってくれていても、その気配は静かに這い寄ってくるようだった。

「…………っ」

思わず口に手を当て息を呑み込むと、ルドヴィクは再び剣の柄に手を掛け、セヴランを警戒しているようだった。
だが、セヴランは不気味な笑みを浮かべたまま、その場を動かない事が分かると、途切れたセヴランの言葉の続きを確認するように口にした。

「………だからこそ、そこの裏切り者と手を組み、カヴァニスとブロンザルドの友好のためという尤もらしい理由をつけて、パトリス息子の妃にアリーチェ姫を望んだ、ということにしたのだな?」

ルドヴィクは睨む訳でも、怒りを露わにするわけでもなく、ただじっとセヴランを見つめていた。
そして暫くすると、口元にだけ酷薄な笑みを浮かべた。

「………全く、よく考えたものだな。確かにこの理由ならば辻褄は合うし、誰も疑念を抱かないだろう。…………肝心のパトリス王太子さえ納得し、大人しく父親の言いなりになるのであれば…………になど、誰一人として気がつかないだろうな」

わざと力を込めて言い放ったルドヴィクは、嘲りを込めて嘲笑った。
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