隻眼の騎士王の歪な溺愛に亡国の王女は囚われる

玉響

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178.堕ちた国王(2)

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「か………隠された、思惑………?」

 今の状況について行くのがやっと、といった雰囲気のブロンザルドの宰相が、狼狽えたように震える声を絞り出した。

「………そうだ」

 ルドヴィクは氷のような冷たさと鋭さを帯びたエメラルド色の単眼を細める。

「その男………お前たちが『王』として敬愛しているセヴラン・ブロンザルドという男は、アリーチェ姫を自らの息子であるパトリス王太子の妃に据えようとしていたが、それは見せかけだけだったということだ」

 淡々としたルドヴィクの声は、アリーチェにとって思い出すことすらも悍ましい、あの事実を語ろうとしているのに気がついた。
 しかし他国の王でしかないルドヴィクが何故、当事者であるアリーチェすらもつい数日前に知ったばかりの事実を知っているのだろうか。
 寧ろ彼は、一体何をどこまで知っているのだろうか。

 アリーチェは眼の前に立ちはだかる広くて逞しい背中を見つめながら、この断罪の結末を見届けた後に、全てをルドヴィクに問い質そうと心に決めると、すうっと息を吸い込み、唇を強く引き結んだ。

「黙れ、この下賤がっ…………!」

 セヴランはまた口汚くルドヴィクを蔑む。
 しかし、その表情は先程までとは異なり、激しい焦燥感が明確に浮かび上がっていた。

「何故黙らなければならない?………長年お前に仕えてきたこの者たちに、最期にお前の悍ましすぎる本性までも知ってもらう絶好の機会だろう?」

 まるで揶揄うようなルドヴィクの態度に、セヴランは一瞬身の毛もよだつほどに醜く恐ろしい形相になった後に、強く奥歯を噛みしめた。
 そんなセヴランを一瞥すると、ルドヴィクはゆっくりと、口を開いた。

「この男………お前たちが敬愛していた『王』が、アリーチェ姫を自らの息子であるパトリス王太子の妃として据えたかった真の理由………」
「黙れと言っている!」

絶叫に近いセヴランの怒号を聞き流したルドヴィクは、一瞬アリーチェの方を振り返り、それからしっかりとセヴランを見つめながら口を開いた。

「それは、彼女を自らの愛妾として囲い込み、彼女に自らの血を引く子を産ませることだ」

静かに、だがはっきりと告げられた真実に、ブロンザルドの貴族達は皆、信じられないというように、呆然とした表情でセヴランを見つめていた。
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