179 / 351
178.堕ちた国王(2)
しおりを挟む
「か………隠された、思惑………?」
今の状況について行くのがやっと、といった雰囲気のブロンザルドの宰相が、狼狽えたように震える声を絞り出した。
「………そうだ」
ルドヴィクは氷のような冷たさと鋭さを帯びたエメラルド色の単眼を細める。
「その男………お前たちが『王』として敬愛しているセヴラン・ブロンザルドという男は、アリーチェ姫を自らの息子であるパトリス王太子の妃に据えようとしていたが、それは見せかけだけだったということだ」
淡々としたルドヴィクの声は、アリーチェにとって思い出すことすらも悍ましい、あの事実を語ろうとしているのに気がついた。
しかし他国の王でしかないルドヴィクが何故、当事者であるアリーチェすらもつい数日前に知ったばかりの事実を知っているのだろうか。
寧ろ彼は、一体何をどこまで知っているのだろうか。
アリーチェは眼の前に立ちはだかる広くて逞しい背中を見つめながら、この断罪の結末を見届けた後に、全てをルドヴィクに問い質そうと心に決めると、すうっと息を吸い込み、唇を強く引き結んだ。
「黙れ、この下賤がっ…………!」
セヴランはまた口汚くルドヴィクを蔑む。
しかし、その表情は先程までとは異なり、激しい焦燥感が明確に浮かび上がっていた。
「何故黙らなければならない?………長年お前に仕えてきたこの者たちに、最期にお前の悍ましすぎる本性までも知ってもらう絶好の機会だろう?」
まるで揶揄うようなルドヴィクの態度に、セヴランは一瞬身の毛もよだつほどに醜く恐ろしい形相になった後に、強く奥歯を噛みしめた。
そんなセヴランを一瞥すると、ルドヴィクはゆっくりと、口を開いた。
「この男………お前たちが敬愛していた『王』が、アリーチェ姫を自らの息子であるパトリス王太子の妃として据えたかった真の理由………」
「黙れと言っている!」
絶叫に近いセヴランの怒号を聞き流したルドヴィクは、一瞬アリーチェの方を振り返り、それからしっかりとセヴランを見つめながら口を開いた。
「それは、彼女を自らの愛妾として囲い込み、彼女に自らの血を引く子を産ませることだ」
静かに、だがはっきりと告げられた真実に、ブロンザルドの貴族達は皆、信じられないというように、呆然とした表情でセヴランを見つめていた。
今の状況について行くのがやっと、といった雰囲気のブロンザルドの宰相が、狼狽えたように震える声を絞り出した。
「………そうだ」
ルドヴィクは氷のような冷たさと鋭さを帯びたエメラルド色の単眼を細める。
「その男………お前たちが『王』として敬愛しているセヴラン・ブロンザルドという男は、アリーチェ姫を自らの息子であるパトリス王太子の妃に据えようとしていたが、それは見せかけだけだったということだ」
淡々としたルドヴィクの声は、アリーチェにとって思い出すことすらも悍ましい、あの事実を語ろうとしているのに気がついた。
しかし他国の王でしかないルドヴィクが何故、当事者であるアリーチェすらもつい数日前に知ったばかりの事実を知っているのだろうか。
寧ろ彼は、一体何をどこまで知っているのだろうか。
アリーチェは眼の前に立ちはだかる広くて逞しい背中を見つめながら、この断罪の結末を見届けた後に、全てをルドヴィクに問い質そうと心に決めると、すうっと息を吸い込み、唇を強く引き結んだ。
「黙れ、この下賤がっ…………!」
セヴランはまた口汚くルドヴィクを蔑む。
しかし、その表情は先程までとは異なり、激しい焦燥感が明確に浮かび上がっていた。
「何故黙らなければならない?………長年お前に仕えてきたこの者たちに、最期にお前の悍ましすぎる本性までも知ってもらう絶好の機会だろう?」
まるで揶揄うようなルドヴィクの態度に、セヴランは一瞬身の毛もよだつほどに醜く恐ろしい形相になった後に、強く奥歯を噛みしめた。
そんなセヴランを一瞥すると、ルドヴィクはゆっくりと、口を開いた。
「この男………お前たちが敬愛していた『王』が、アリーチェ姫を自らの息子であるパトリス王太子の妃として据えたかった真の理由………」
「黙れと言っている!」
絶叫に近いセヴランの怒号を聞き流したルドヴィクは、一瞬アリーチェの方を振り返り、それからしっかりとセヴランを見つめながら口を開いた。
「それは、彼女を自らの愛妾として囲い込み、彼女に自らの血を引く子を産ませることだ」
静かに、だがはっきりと告げられた真実に、ブロンザルドの貴族達は皆、信じられないというように、呆然とした表情でセヴランを見つめていた。
0
お気に入りに追加
449
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる