猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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新婚編

50.叔母と姪

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「ふぉっふぉっ。そう言えば最近結婚したと風の噂で聞いた気がするが………ひょっとしてこちらのお嬢さんが妃殿下かな?」

ベッキオは乱れてしまった長い髭を手櫛で丁寧に撫でつけながらちらりとリリアーナの方を見た。

「最愛の妻の他に誰を連れ歩くというのです?」

幾分冷静さを取り戻したらしいラファエロが、小さく咳払いをするとリリアーナの腰に腕を回して自分の方へと引き寄せた。

「ラ、ラファエロ様………」

その仕草がまるで、ベッキオに自分達の仲の良さを見せつけるように感じられて、リリアーナは戸惑いとほんの少しの恥ずかしさ、そしてそれを上回る喜びを感じる。

決して関係の深い知り合い、というわけではなさそうだが、古くから彼を知る人物に対して、このように紹介してもらえるとは考えても見なかったからだろう。

「お嬢さんはドロエット公爵夫人の姪御だそうじゃな。………確かにあの方によく似ておる。見た目だけではなく、性格もな」

ベッキオは目を細めると、眩しそうにリリアーナに改めて視線を向ける。

「叔母の事もご存知なのですわね。………それに、私の事まで………」
「まぁドロエット公爵夫人は有名人じゃからな。夫人はいつもオズヴァルドの話題の中心にいる方のせいか、自ずとその関係者についても耳にする機会が多くての」

ふぉっふぉっ、と軽やかな笑い声が仄暗い室内に響き渡る。

「………有名人………」

リリアーナはますます頭を抱えたくなってきた。
叔母は一体どんな日常を贈っているのだろうか。
いくら豪胆な一族として名を馳せるグロッシ侯爵家においても、一際異彩を放つソニアの事だ。身分を隠さずに町中を出歩き、王都に住む平民と触れ合うくらいは、叔母の事だから日常茶飯事なのだろう。
それに、万が一暴漢に襲われたとしても、彼女ならば全て返り討ちにしてしまうだろうと言うことさえも、自然に想像出来てしまう。

「恥じることなど一つもありませぬよ。ドロエット公爵夫人ほど魅力的な御婦人は滅多にお目にかかれないからのう。………しかし本当に、素晴らしい妃を選ばれましたな」

ベッキオはまるで孫の成長を喜ぶかのように、深い皺が刻まれた目尻を下げ、何度も何度も頷きながら口髭を撫でるのだった。
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