猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

115.自分本位

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「…………………っ」

幾度か瞬きを繰り返すラヴィニアの目から、はらりと涙が零れ落ちた。

「泣けば、許されるとでも思っているのならば、本当におめでたい方だ。そうは思いませんか、リリアーナ?」

心底呆れたとでも言うように、ラファエロは肩を竦めると、リリアーナに話を振ってきた。

「確かに泣けば赦されると勘違いなさっている令嬢は沢山おられますけれど………」

王女がどうなのかを明言するのはなんとなく憚られたため、リリアーナはわざとぼんやりとした返答をしてみた。
するとラファエロはリリアーナに向かって微笑んで見せる。

「本当にあなたは優しい人だ。あなたをあれだけ罵倒し、見下して傷付けた相手にも同情するのですからね」

愛おしそうにそう呟くと、一呼吸置いてからちらりと王女の方に視線を向けた。

「………そもそもあなたには、マナーや常識が欠落しているという貴族社会に於いて生きていく事が出来ないという問題以前に、私の愛しい妃のように相手を思い遣る心というものがないのです。だからこそ、そのような『自分だけが悲劇の主人公』のような思考に発展するのですよ」

凡そ同じ人物が話しているとは思えないほどに、リリアーナに向ける声と、ラヴィニアへ向けるそれとはトーンも、込められた感情も真逆のものだった。
ラファエロはいつも穏やかな笑みを浮かべていて、人前ではあまり己の感情を露わにはしない。
ラヴィニアに対してこれ程までに明確に感情を出すということは、ラファエロは彼女のことをジュストやディアマンテと同じくらいに嫌っているからだろう。
彼女にどんな理由があれ、ラファエロの指摘は間違っていない。
ラヴィニアは己のことばかりで、結局周囲の迷惑や相手の気持を汲み取る想像力が無かったせいで、『自分は被害者』という誤った認識を改めることが出来ないままにここまで来てしまったのだろう。

「………それに関しては、従者たる私の落ち度です」

涙を流し続けるラヴィニアを庇おうと、ルカが口を開いた。

「私は幼い頃から、姫様の幼馴染みとして共に成長してまいりました。………そのせいか、姫様は私の言うことは聞き入れて下さることも多く、陛下も私を信頼し、姫様の従者として正式に認めてくださったのです。………ですから、姫様の劣等感を拭えなかった私に、全ての責任があるのです」

ただラヴィニアに助け舟を出そうとしているだけとは思えないような深刻そうな表情で、ルカは頭を垂れた。
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