猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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結婚編

114.劣等感

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「姫様…………」

ルカは心配そうな面持ちで、ラヴィニアを見つめる。
優しい、けれども切なそうなその眼差しに、リリアーナの中で疑惑が確信に変わっていく。

(………インサーナ侯爵令息は、ラヴィニア王女の事が好きなのだわ………)

だからこそ、あれだけ我儘で気分屋でヒステリックなラヴィニアに付き従っているのだろう。
考えてみればあの時ラヴィニアを諌めたのも、あの場でリリアーナに手を出せば、ラヴィニアもただでは済まないと判断した上での行動だろうが、自分が悪者になって、注意を自分に向けることで彼女を守ろうとしたのかもしれない。

「………わたくしのお母様は、伯爵令嬢だったけれど、教養があり、とても素晴らしい人なの。それで当時王太子だったお父様に見初められて結婚したのだけれど、侯爵家より下の爵位の家門から王家に嫁いだ例がなかったせいか、当時はかなり反発があったそうよ。………一部の家ではまだそれを根に持っていて、お母様やお兄様、それにガラディスに嫁いだお姉様にケチをつけようとしていたらしいけれど、お兄様達は完璧だったせいでそれが出来なかった。………そこに王家の落ちこぼれであるわたくしがのこのこと出ていけば、どうなるかは分かるでしょう?」

キエザに来てから、ラヴィニアがこれほどまでに長く話をしたのは初めてのことだった。
話し方も、思考も、実年齢の割には幼い印象を受けたが、それでも、妙な横暴さが削ぎ落とされて、本当のラヴィニアの顔が見えた気がした。

「………落ちこぼれと自分で言うのならば、それを補うための努力はどれだけしたのですか?」

ほんの少し、ラヴィニアに同情しかけたリリアーナとは違い、隣りにいたラファエロは容赦が無かった。

「ラファエロ様…………」

ラヴィニアにも事情があるのだと言ったルカの言葉の意味が漸く理解できたのだから、あまり酷く責めないでほしいとリリアーナはラファエロに目で訴えた。
するとラファエロはそんなリリアーナの意図するところに気がついたらしく、リリアーナに向かってにこりと微笑むと、悠然とした雰囲気のままエメラルド色の双眸をラヴィニアに向ける。

「でも、わたくしは…………っ!」

ラヴィニアが小さく叫ぶと、ラファエロは鼻で笑い、冷たく言い放った。

「そんなものは、逃げでしかありませんよ」

溜息と共に紡がれたのは、きつい言葉だけだった。
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