猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

37.プロポーズ

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「中途半端な状態で、待たせてしまい申し訳ありませんでした。………プロポーズをするときは、最高の思い出になるように、最高の日に行うと心に決めていたんです」

ほんの少し、照れたようにラファエロは呟くと、ゆっくりとその場に跪いた。

「リリアーナ・グロッシ侯爵令嬢。どうか、私と結婚してください」

回りくどい言い回しなど一切ない言葉を、淀みのない声で告げると、ラファエロはリリアーナに、まるで祈りを捧げるかのように大きな花束を差し出した。

昼間にエドアルドがクラリーチェにしたプロポーズを見守りながら、開港祭今日という特別な日に、ラファエロから求婚されることを、心のどこかで期待していたのは事実だった。

しかし、こんな状況は全く想定していなかった。
喜びなのか、それとも驚愕なのかすらも分からなくなるほどに、リリアーナの中には様々な感情が犇めきあっていた。

女の子なら誰もが一度は憧れる、王子様からの情熱的なプロポーズ。
そんな恋物語の一節のような状況は、少し前であれば、期待することすらも絶望的だったというのに、たった数週間後には愛する人に傅かれ、花言葉に乗せたロマンチックな求婚をされることになるなどと、一体誰が想像するだろう。

夢ではないのだろうかと、リリアーナは込み上げてくる歓喜と、得も言われぬ幸福感の震える手をゆっくりと伸ばして、薔薇の花束に触れた。

「…………」

何か気の利いたことを言わなければと思うのに、頭の中には言葉すらも浮かんでは来なかった。
その代わりに、視界が緩やかに滲んでいく。

堪えきれなくなった涙が零れ落ちるのと同時に、リリアーナは花束を受け取った。
そして、跪くラファエロの前にゆっくりと腰を下ろすと、ぎゅっとラファエロに抱きついた。

「………勿論です、ラファエロ様。私には、ラファエロ様のいない未来など考えられません………っ」

嗚咽を堪えながら、やっとのことでそれだけ言葉を絞り出す。

前回の開港祭の夜、ラファエロから想いを告げられた時とは比べ物にならない程に胸がいっぱいだった。
溢れ返るこの気持ちを、なんと表現したら良いのだろう。

そんなリリアーナを、ラファエロは優しく抱き締めてから、指で涙を拭ってくれた。

「また、泣かせてしまいましたね」
「これは、嬉し涙ですわ」

リリアーナは幸せを噛み締めながら、目尻に涙を溜めたままふわりと微笑むと、ラファエロもそれに応えるように優しくリリアーナに口付けを落とした。
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