猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

36.薔薇

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ラファエロの私室は、以前訪れたことがあったが、その時とは全く違う光景が広がっていた。

テーブルや窓辺などに、大小様々な花瓶に入れられて真紅の薔薇の花が沢山飾られていたのだ。
先程感じた芳しい香りの正体は、薔薇の香りだったようだ。

でも、どうしてラファエロの部屋に大量の花が飾られているのだろう。

「ラファエロ様、これは…………?」
「ちょっとした、プレゼントですよ」

驚いて目を瞬くリリアーナに対して、ラファエロは事もなげにそう告げると、リリアーナを部屋の中央辺りまで運んでからゆっくりと下ろした。

一体、何百、いや何千本の薔薇があるのだろうか。
庭園中の薔薇を全て刈り取ってしまったのではないかと思う程の花の数だった。
部屋の中をぐるりと見回してみるが、どう考えても「ちょっとしたプレゼント」の範疇を超えた量にしか見えない。

「これを、全部私に…………?」
「喜んで頂けましたか?」

呆然と立ち尽くすリリアーナの背後から、ラファエロが声を掛けた。

「これ………全部で何本ありますの?」

嬉しいとか感動よりも、圧巻の光景に呑まれてしまい、口から出てきたのは単純な疑問だった。

「さあ………正確な本数は分かりませんが、九百九十九本よりも多いことは確かです」

ラファエロは謎めいた答え方をしてきた。
そんな事は見ただけでも分かるのに、何故「千本」でなく「九百九十九本」という数字を上げるのだろう。

「………リリアーナ。あなたは薔薇の花言葉をご存知ですか?」

ラファエロはゆったりとした足取りで、リリアーナの正面へと進み出た。
そうして二人が向き合う格好になると、ラファエロがふわりと蕩けるような笑顔を浮かべた。

「花言葉、ですか?確か、愛………でしたかと………」

花は好きだが、花言葉はあまり詳しくなかった。
ただ、大好きな恋物語の中で、薔薇の花言葉が出てきたのを思い出して、咄嗟に答えてみる。

「一般的なものは、そうですね。でも、薔薇の花は………色や本数によっても意味が違ってくるのですよ」

そう言って、ラファエロは先程のリリアーナと同じようにぐるりと部屋の中を見回した。

「赤い薔薇は愛情、白い薔薇は純粋、一本の薔薇は一目惚れ。………様々な意味があって、興味深いですよね」

微笑みを浮かべたまま、ラファエロは纏った式典服の襟元を左手で整えると、すぐ隣のテーブルに置かれていた大きな薔薇の花束を手に取った。

「この花束は、百八本の薔薇が使われています。………花言葉は、『結婚してください』」

ラファエロの紡いだ言葉に、リリアーナはこれ以上ないくらいに、大きく目を見開いた。
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