猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

35.サプライズ

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ラファエロはそのまま会場の大広間ではなく、バルコニーを通り抜けて奥にある控室の方から宮内へと入っていった。

「あの、ラファエロ様………これでは遠回りになるのでは………?」

ラファエロの首にしがみつきながら、リリアーナは不思議そうに問いかけた。

「………言ったでしょう?可愛らしいあなたを、他の人間の目に触れさせたくないと………」

どきりとするような情熱的な瞳がリリアーナを覗き込んできて、リリアーナはひゅっと息を吸い込んだ。

「まあ………こうしてあなたの温もりを腕の中に感じていたいのも事実ですけれどね」

更に追い打ちをかけるように微笑みかけられると、リリアーナは込み上げてくる羞恥心に、思わずぎゅっと目を瞑った。

「そうしていてくれれば、あなたの美しい瞳に、他の人間が映ることもないから丁度いいですね。………そのまま、私がいいと言うまで目を閉じていてください」

優しく、諭すような声でラファエロが囁く。
その言葉にすらときめいてしまうのだから、もうどうしようもないとリリアーナは思った。
そして、大人しく彼の言葉に頷いて、しがみつく腕に力を込める。

頬に触れる風が、火照った顔を優しく撫ぜる。
その感触と、ラファエロの温もりが心地よくて、そっと肩に凭れ掛かった。
すると、ふっとラファエロが笑ったような気配がした。



暫くそうして目を閉じていると、人々のさざめく声が聞こえてきて、そこを抜けると、穏やかな静寂が二人を包んだ。
石造りの廊下に、ラファエロの靴と微かな衣擦れの音だけが響いている。
だが、リリアーナには自分の胸の鼓動が何よりも大きく聞こえていた。

不意に、ラファエロの歩みが止まり、女性の声が聞こえた。

「お帰りなさいませ。………全ては、滞りなく」

凛として、女性にしては少し低めなその声には聞き覚えがあった。

「マ、マリカ………?」
「はい、お嬢様。………しかし、殿下………これは何プレイですか?」

リリアーナの問いかけに、マリカが答えた後、ぼそりと呟きが聞こえた。

「………おかしな詮索をするものではありませんよ」

ほんの少し不機嫌そうなラファエロの声と同時に、扉が開く音が聞こえた。
ラファエロが再び動き出すと、リリアーナの鼻孔を、芳しい香りが擽った。

「さあ、リリアーナ。目を、開けてください」

耳元で、ラファエロが囁くのが聞こえる。
マリカが迎える声が聞こえたということは、部屋に着いたということなのだろう。

ほんの少しの不安と、大きな期待に胸を膨らませながら、リリアーナはゆっくりと瞼を持ち上げた。
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