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婚約編
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どれくらいの間そうしていただろうか。
互いの存在を確かめ合うかのように触れ合っていたラファエロの唇が、そして顔がゆっくりと離れていく。
名残惜しそうにリリアーナがラファエロを見つめると、ラファエロは僅かに紅潮した顔に笑みを浮かべた。
「………いくら夏とはいえ、あまり長い時間海風に当たって、体が冷えてしまっては大変ですからね。ずっとこうしていたいのは山々ですが、そろそろ戻りましょうか」
そう言いながらラファエロはそっとリリアーナの体を解放した。
たったそれだけなのに、夢見心地のような時間から、急に現実に引き戻されたような気がしてしまう。
それが無性に寂しくてリリアーナはラファエロに気が付かれないように唇を噛んだ。
もっとラファエロと二人きりでいたいと思ってしまうのは、自分の我儘だと分かっていた。
彼は王弟で、今宵の夜会でも王族の一員として、リベラートをはじめとした賓客を饗すという役割があるのも分かっている。
それなのにそんな勝手なことを言ってラファエロを困らせたくないのに、彼に会場に戻って欲しくないと心の底から思ってしまう。
いつも状況を見極め、自分がどうあるべきかを考え、作り笑いを張り付けながら賢しく立ち回っていた『猫被り令嬢』は一体どこへ行ってしまったのだろう。
自然と眉間に皺が寄るのを隠したくて俯いた途端、目の前にラファエロの手が現れた。
「まだ侯爵邸に戻るには早すぎますから、少し私の部屋に来てくださいませんか?」
「え………?」
ラファエロの思いもよらない言葉に、リリアーナは小さく声を上げた。
「もう兄上たちもとっくに自室に戻っていますから、今更会場に戻る必要などないでしょう?」
ラファエロは嫣然と微笑むと、強引にリリアーナの手を掴み、自分のほうへと引き寄せる。
「………あなたに、見せたいものがあるんです」
再び耳元でラファエロの甘い声が囁いた。
そして、徐にリリアーナの体を持ち上げると、軽々と横抱きにする。
「ラ、ラファエロ様………?!」
予想だにしなかった事態に、リリアーナは戸惑いの悲鳴を上げた。
こうして突然抱き上げられるのは、今日だけで二度目だ。
だからと言って、何度同じことをされても落ち着ける訳がなかった。
「おっと、暴れると危ないですよ?廊下に比べればバルコニーは狭いですからね。………まあ、あなたを落とすことは絶対にありませんが」
不敵な笑みを浮かべたラファエロは、反論すらも出来ず、再び顔を真っ赤に染め上げたリリアーナを軽々と自室へと運んでいったのだった。
互いの存在を確かめ合うかのように触れ合っていたラファエロの唇が、そして顔がゆっくりと離れていく。
名残惜しそうにリリアーナがラファエロを見つめると、ラファエロは僅かに紅潮した顔に笑みを浮かべた。
「………いくら夏とはいえ、あまり長い時間海風に当たって、体が冷えてしまっては大変ですからね。ずっとこうしていたいのは山々ですが、そろそろ戻りましょうか」
そう言いながらラファエロはそっとリリアーナの体を解放した。
たったそれだけなのに、夢見心地のような時間から、急に現実に引き戻されたような気がしてしまう。
それが無性に寂しくてリリアーナはラファエロに気が付かれないように唇を噛んだ。
もっとラファエロと二人きりでいたいと思ってしまうのは、自分の我儘だと分かっていた。
彼は王弟で、今宵の夜会でも王族の一員として、リベラートをはじめとした賓客を饗すという役割があるのも分かっている。
それなのにそんな勝手なことを言ってラファエロを困らせたくないのに、彼に会場に戻って欲しくないと心の底から思ってしまう。
いつも状況を見極め、自分がどうあるべきかを考え、作り笑いを張り付けながら賢しく立ち回っていた『猫被り令嬢』は一体どこへ行ってしまったのだろう。
自然と眉間に皺が寄るのを隠したくて俯いた途端、目の前にラファエロの手が現れた。
「まだ侯爵邸に戻るには早すぎますから、少し私の部屋に来てくださいませんか?」
「え………?」
ラファエロの思いもよらない言葉に、リリアーナは小さく声を上げた。
「もう兄上たちもとっくに自室に戻っていますから、今更会場に戻る必要などないでしょう?」
ラファエロは嫣然と微笑むと、強引にリリアーナの手を掴み、自分のほうへと引き寄せる。
「………あなたに、見せたいものがあるんです」
再び耳元でラファエロの甘い声が囁いた。
そして、徐にリリアーナの体を持ち上げると、軽々と横抱きにする。
「ラ、ラファエロ様………?!」
予想だにしなかった事態に、リリアーナは戸惑いの悲鳴を上げた。
こうして突然抱き上げられるのは、今日だけで二度目だ。
だからと言って、何度同じことをされても落ち着ける訳がなかった。
「おっと、暴れると危ないですよ?廊下に比べればバルコニーは狭いですからね。………まあ、あなたを落とすことは絶対にありませんが」
不敵な笑みを浮かべたラファエロは、反論すらも出来ず、再び顔を真っ赤に染め上げたリリアーナを軽々と自室へと運んでいったのだった。
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