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婚約編
24.サプライズ
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美しく飾られた祝祭船の船首部分で、まるで時が止まったかのように、絵に書いたような美男美女が互いを見つめ合う姿は、それくらいに圧巻だった。
リリアーナの位置からは聞こえないような小さな声でのやり取りが続いた後、エドアルドが徐ろにクラリーチェの手を取り、左手の薬指に光る指輪にそっと口付けを落とす。
すると、クラリーチェは恥ずかしそうに頬を赤らめて俯いた。
「妃になって欲しいとか、私が生涯を共にするのはクラリーチェだけとは伝えたが、『結婚しよう』としっかり伝えていなかったことに気がついたんだ。どうせ結婚の申込みをするのなら、これ以上の舞台はないだろう?」
今度は、エドアルドの声がはっきりとリリアーナのところまで聞こえてきた。
そして、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、どこに隠していたのか、淡い紫と水色の花で彩られた花冠を取り出し、クラリーチェの頭に載せて見せたのだった。
あまりのことに、堪えきれなくなったらしいクラリーチェが、ポロポロと大粒の涙を零し始めた。
水色と淡い紫色。二人の色彩で彩られた完璧な花冠には『終わりのない未来』という意味が込められている。
それをそれぞれの瞳の色で作ってあるのだから、それが指し示すところの意味は、一目瞭然だった。
「さあ、愛しい人。答えを、聞かせてくれ」
数え切れないほどの観客に見守られながら、エドアルドの靭やかな指でクラリーチェの涙をそっと拭うと、顔を覗き込んだ。
すると、クラリーチェはその花冠から一本の花を抜き取ると、祈りを込めてエドアルドの真っ白な式典服の胸元に挿した。
「勿論です、エドアルド様」
はっきりとした声で答えると、クラリーチェは大輪の花が綻ぶような美しい笑顔を浮かべた。
途端に感極まったような表情を浮かべたエドアルドが愛おしそうにクラリーチェを抱き上げると、そのまま深く口付けた。
「何て素敵なのかしら…………!」
リリアーナはまるで夢でも見ているのかと思うような光景に、思わずうっとりと呟いた。
こんなにもロマンチックな展開は、『月夜の灰かぶり姫』にも出てこないだろう。
「ああいう、派手な演出がお好みですか?」
ふと耳元でラファエロが囁いて、リリアーナは驚きに目を瞠った。
「ラファエロ様………?」
「ふふ。言ってみただけですよ。私は私のやり方でやりますから、
待っていて下さいね」
リリアーナにだけ聞こえる声で、そう囁くと、クラリーチェ達に向けて送られる拍手に、ラファエロも加わった。
「………そろそろ頃合いか」
リリアーナ達のやり取りを横目で見ながらもエドアルド達を静かに見守っていたリベラートが、にやりと嗤うと、すっと右手を上げると声を上げた。
それが、先程言われた『合図』だと気が付き、リリアーナはラファエロと共に立ち上がると、籠の中の花びらを手に取り、上空に向かって放った。
「私からのささやかな祝いだ。受け取れ」
花びらと共に、リベラートの声が響き渡った。
リリアーナ達と同様に、船の漕手や船頭、それに他の船に乗っている者たちが一斉に花びらを散らした。
潮風に乗った幾千もの花びらが、空に舞い散っていく光景は筆舌に尽くしがたい程に幻想的な光景だった。
いつの間に用意していたのだろう。
これだけの生花を手配するのも、全員に計画を知らしめるのも、他国の王族という立場では、容易ではなかったはずだ。
目を瞬かせるリリアーナの前で、リベラートは涼しい顔をしたまま、エドアルド達を見つめていたのだった。
リリアーナの位置からは聞こえないような小さな声でのやり取りが続いた後、エドアルドが徐ろにクラリーチェの手を取り、左手の薬指に光る指輪にそっと口付けを落とす。
すると、クラリーチェは恥ずかしそうに頬を赤らめて俯いた。
「妃になって欲しいとか、私が生涯を共にするのはクラリーチェだけとは伝えたが、『結婚しよう』としっかり伝えていなかったことに気がついたんだ。どうせ結婚の申込みをするのなら、これ以上の舞台はないだろう?」
今度は、エドアルドの声がはっきりとリリアーナのところまで聞こえてきた。
そして、その言葉が終わるか終わらないかのうちに、どこに隠していたのか、淡い紫と水色の花で彩られた花冠を取り出し、クラリーチェの頭に載せて見せたのだった。
あまりのことに、堪えきれなくなったらしいクラリーチェが、ポロポロと大粒の涙を零し始めた。
水色と淡い紫色。二人の色彩で彩られた完璧な花冠には『終わりのない未来』という意味が込められている。
それをそれぞれの瞳の色で作ってあるのだから、それが指し示すところの意味は、一目瞭然だった。
「さあ、愛しい人。答えを、聞かせてくれ」
数え切れないほどの観客に見守られながら、エドアルドの靭やかな指でクラリーチェの涙をそっと拭うと、顔を覗き込んだ。
すると、クラリーチェはその花冠から一本の花を抜き取ると、祈りを込めてエドアルドの真っ白な式典服の胸元に挿した。
「勿論です、エドアルド様」
はっきりとした声で答えると、クラリーチェは大輪の花が綻ぶような美しい笑顔を浮かべた。
途端に感極まったような表情を浮かべたエドアルドが愛おしそうにクラリーチェを抱き上げると、そのまま深く口付けた。
「何て素敵なのかしら…………!」
リリアーナはまるで夢でも見ているのかと思うような光景に、思わずうっとりと呟いた。
こんなにもロマンチックな展開は、『月夜の灰かぶり姫』にも出てこないだろう。
「ああいう、派手な演出がお好みですか?」
ふと耳元でラファエロが囁いて、リリアーナは驚きに目を瞠った。
「ラファエロ様………?」
「ふふ。言ってみただけですよ。私は私のやり方でやりますから、
待っていて下さいね」
リリアーナにだけ聞こえる声で、そう囁くと、クラリーチェ達に向けて送られる拍手に、ラファエロも加わった。
「………そろそろ頃合いか」
リリアーナ達のやり取りを横目で見ながらもエドアルド達を静かに見守っていたリベラートが、にやりと嗤うと、すっと右手を上げると声を上げた。
それが、先程言われた『合図』だと気が付き、リリアーナはラファエロと共に立ち上がると、籠の中の花びらを手に取り、上空に向かって放った。
「私からのささやかな祝いだ。受け取れ」
花びらと共に、リベラートの声が響き渡った。
リリアーナ達と同様に、船の漕手や船頭、それに他の船に乗っている者たちが一斉に花びらを散らした。
潮風に乗った幾千もの花びらが、空に舞い散っていく光景は筆舌に尽くしがたい程に幻想的な光景だった。
いつの間に用意していたのだろう。
これだけの生花を手配するのも、全員に計画を知らしめるのも、他国の王族という立場では、容易ではなかったはずだ。
目を瞬かせるリリアーナの前で、リベラートは涼しい顔をしたまま、エドアルド達を見つめていたのだった。
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