猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

23.エドアルドのプロポーズ

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波のさざめきに混じって、エドアルドが花冠と指輪を投げ入れる音が微かに響き渡る。
海神への供物がゆっくりと水底へと沈んでいく様を見届けたエドアルドに向けて、観衆から大きな歓声と共に、拍手が沸き起こる。
その歓声に応えるように右手を挙げてから、エドアルドはもう役目は果たしたとでもいうように、さっさと海に背を向けてしまった。
あまりに呆気ない儀式の終わりに、祝祭船ブチントーロに乗った貴族達も、陸地からその様子を眺める者たちも、ざわざわとざわめき始める。

だが、あの船内で彼の姿を見つめていたであろう人物を思い浮かべ、リリアーナは笑みを零した。

「余程クラリーチェ様と一緒にいたいようですわね」
「………グロッシ侯爵令嬢。あいつの見せ場はこれからですよ」

突然、リベラートがにやりと笑いながらいつの間にか手にしていた籠をリリアーナへと手渡してきた。

「あの、これは………?」
「私が合図を出したら、その籠の中の花を、空に向かって投げてもらいたいんだ」

籠を受け取り、中に入っている色とりどりの花びらとリベラートの顔、そしてすぐ隣にいるラファエロの顔を順番に見、漸くリベラートの意図を理解する。

「この後に、何かあるのですね?」
「………私の自慢の兄の、一世一代の見せ場ですよ」

ラファエロは普段と変わらない穏やかな笑顔を浮かべているのに、どこか嬉しそうに見えた。

「クラリーチェ」

エドアルドの声がして、正面の船に目を向けると、エドアルドが両手を広げてクラリーチェに呼びかけていた。

「来い」

エドアルドは見たこともないような満面の笑顔を浮かべている。
すると、躊躇いがちにクラリーチェが船内から姿を現した。

「あの…………?」

明らかに困惑した表情を浮かべてエドアルドに向かい合うクラリーチェに、エドアルドは微笑みかける。

「今の結婚の宣言は、『キエザ国王』としての宣言だ。………そして、『エドアルド・レアーレ・キエザ』個人として………クラリーチェ・ジャクウィント、私は貴女と結婚し、生涯を共にしたい」

柔らかな潮風に乗って、エドアルドの真摯な告白が響き渡ると、観衆から、先程よりも更に大きな歓声が湧き上がった。
予想もしなかった事態に、クラリーチェは驚き、言葉すらも出てこないようで、ただ大きく目を瞠り、エドアルドを見上げている。
その様子を見ているだけで、リリアーナは表現し難いほどの感動に、自然と目に熱いものが込み上げてくるのを感じた。
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