猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

10.リリアーナの伯母

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「そういえばラファエロ様は幼少期をオズヴァルドで過ごされたのですよね?」

オズヴァルドの話を聞いていてリリアーナがふと思い出したように尋ねると、ラファエロは頷いた。

「ええ。七歳まではオズヴァルドに身を寄せていました。私達の教育係としてオズヴァルドに同行してくださったあなたの伯母上………ドロエット公爵夫人にも随分とお世話になりましたよ」

オズヴァルド王国に嫁いだ伯母の名が出てきたことでリリアーナの表情が綻んだ。

オズヴァルドのソニア・ドロエット公爵夫人はリリアーナの父、現グロッシ侯爵の姉で、若い頃から才女として有名で、その知識を買われて幼いエドアルドとラファエロの教育係としてオズヴァルド王国へ同行した。
そしてオズヴァルド王国随一の貴族であるドロエット公爵家の嫡男に見初められ、熱烈な求愛を受けたのだという話は両親や当事者からよく聞かされていた。

「伯母様はですから、色々と大変だったと聞いておりますわ」

リリアーナは僅かに苦笑する。
他国の大貴族に見初められたと言えば、どんな深窓の令嬢かと思うが、伯母はその想像からは全く外れていた。
人並み以上の容姿と、優れた頭脳は持っているのは事実だが、現グロッシ侯爵の実の姉というだけあって、淑女らしからぬ振る舞いも多い令嬢だった。
時には貴公子に混ざって狩猟に出掛け熊を仕留めたり、令嬢同士の罵り合いを止めてみせたりと、他のグロッシ家の面々の例に漏れず、彼女もまた数々の逸話を残していた。

「とんでもないですよ。むしろ、あのくらいでないと、オズヴァルドでは生き残れないでしょうね。………しかし、当時私は子供で、まだ政治的な色々を理解していませんでしたが、今思い返してみると、あれ程の人材をオズヴァルドに渡してしまったのは惜しいことをしたのだと思います」

滑らかにそう言葉を連ねてから、ほんの少しの間を置いて、ラファエロが不意に真顔になる。

「ですが………ドロエット公爵とあなたの伯母上は互いを一目見た瞬間、『運命の相手』だと思ったそうです。その運命とやらはその当時はよくわかりませんでしたが、あなたに出会ってから、確かに運命は存在するのだと、心からそう思えました。…………ねぇ、リリアーナ?」
「え……………っ?」

妙に色香を含んだ甘い声が、すぐ近くで聞こえて、リリアーナは思わず上擦った声を上げた。
同時に一気に頬が熱くなっていくのが分かって、碧い瞳を揺らしながら、ラファエロを見つめた。
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