猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

4.従兄弟

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「という訳で、クラリーチェ様は随分と不安そうでしたの」

クラリーチェと別れたリリアーナはいつものことながら、ラファエロの執務室を訪れていた。

ラファエロは現在王位継承権一位の地位にあるために、本来王太子が熟すべき仕事を一手に請け負っており、加えて粛清の事後処理にも追われてかなり多忙な筈だが、リリアーナがクラリーチェを訪れる日は必ず予定を空けておいてくれているらしかった。

ラファエロのさり気ない気遣いが嬉しく、こうしてラファエロと共に穏やかな一時を過ごせるのは本当に幸せだった。

「兄上がそう言ったと、クラリーチェ嬢が話したのですか?」

ラファエロは少し驚いたような表情を浮かべた。

「ええ。ですがあちらの王太子殿下は既にご結婚されていた筈では………?」
「その通りです。彼は少し晩婚でしたがね。………まぁそれを言ってしまうと兄上も変わらないのですが」

苦笑いしながら、ラファエロは小さく溜息をついた。

「オズヴァルドの王太子は、私にとってもう一人の『兄』と言っても過言ではない存在ですから、人柄も嗜好も知っているつもりですが………そんな話は聞いたことはありませんね」

ぴしゃりとそう断言すると、ラファエロは持て余した長い脚を組み替える。

「見た目は女性に好まれそうな雰囲気の方でしたけれど………?」
「おや、リリアーナ?あなたの目にもオズヴァルド王太子は魅力的に映っていたのですか?………それは妬けますね」
「そ、そんなことはありませんわ!」

柔和な笑みを浮かべたラファエロの言葉を、リリアーナは慌てて否定した。

「王太子殿下の結婚の話も、容姿も、どちらも朧気な記憶を頼りにしていた位に関心がなかったのですから!それに…………」

そこまで言ってから、リリアーナは一旦口を噤むと、視線を彷徨わせた。

「わ、私はラファエロ様以外の殿方には、一切興味ありませんから…………!」

そして、覚悟を決めたかのように大きな声を上げた。
思いもよらないリリアーナからの愛の告白に、ラファエロは一瞬驚いたように大きく目を瞠ってから嬉しそうな表情を浮かべた。

「ふふ、お世辞でも嬉しいですわ」

にこりと天使の微笑みを浮かべたラファエロは、ふと真顔になった。

「オズヴァルドの件は、兄上に真偽を確かめたほうが良さそうですね」
「お忙しいのに………大丈夫ですの?」
「もちろんですよ。それに………、他ならぬリリアーナのお願いですからね」

ラファエロは喉の奥で笑い、優しい笑顔をリリアーナへと向けた。
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