猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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婚約編

5.動揺

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三日後。

「おい、リリアーナ。一緒に王宮に行くぞ」

朝早く、兄ウルバーノが部屋を訪ねてきた。

「え?でも今日はクラリーチェ様の所へお伺いする予定はないですわ」

訝しげに眉根を寄せる妹に、ウルバーノはがしがしと短いストロベリーブロンドの髪に覆われた頭を乱暴に搔いた。

「それが、昨日王弟殿下に呼び止められたんだよ。それで、直接殿下がお前とまた話がしたいから連れてきてほしいってさ」
「まあ………それならば直接ご連絡下さればいいのに………」

リリアーナは頬に手を当てながら吐息を漏らす。

「殿下もお前に気を遣っているんじゃないか?まだ正式に婚約しているわけじゃないからな。………それで口さがない噂を流すような貴族はもういないだろうから、そんなに外聞を気にする必要なんて無いと思うけど」

ウルバーノは揶揄うような笑みを浮かべてリリアーナを見る。

「そんな………」

ラファエロが自分のことをそんなにも気遣ってくれているのだと思うと、何だか気恥ずかしいような気持ちになり、思わずにやけてしまう。

「………幸せそうで何よりだよ………」

いつもならば食って掛かってくる妹のしおらしい姿に、ウルバーノは拍子抜けしたような曖昧な笑みを浮かべたのだった。



急いで支度を済ませ、ウルバーノと共に王宮へと向かうと、入り口のところでラファエロの侍女・マリカが待っていてくれた。

「お嬢様、お待ちしておりました」

にこりと笑顔を浮かべ、完璧な作法でリリアーナを迎えてくれる。

「殿下がお待ちです。ご案内しますね」

そう言ってマリカが歩き出したのは、ラファエロの執務室とは違う方向だった。

「ラファエロ様の執務室はあちらの方では………?」

リリアーナは不思議そうに声を上げると、マリカは主と同じく、穏やかな笑みを浮かべた。

「………本日、殿下は公務はございませんので、私室にいらっしゃいます」

さらりととんでもない言葉を吐くマリカに、リリアーナは澄み渡った碧の瞳を軽く見開いた。

「私室………、ですの?」
「はい、私室です」

動揺しながら聞き返すリリアーナに、マリカは全く問題ないといった風に涼しい顔をしている。
私室、ということはラファエロの『プライベート空間』。
婚約者だったジュストの私室にすら足を踏み入れるどころか、扉を目にしたことすらなかったというのに、婚約もまだなのに自分が訪れても良いのだろうかと少し不安になる。

「さあ、遠慮はいりません。参りましょうか」
「え………あっ………!」

そんなリリアーナを尻目に、早足で進み始めるマリカを、慌てたように後を追いかけるのだった。
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