猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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ラファエロ編

33.トゥーリ伯爵家の断罪(3)

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エドアルドの審尋にも、淀みない返事を繰り返すトゥーリ伯爵は、ラファエロには感情を含めて全てを沈黙で覆い隠しているように見えた。
エドアルドが問い、トゥーリ伯爵が答える。
そのやり取りを、予め想定していたかのようにトゥーリ伯爵の答えは滑らかなものだった。

クラリーチェに虐待を行っていた妻子への監督責任も、財産の横領も、そして爵位返上の手続についても、トゥーリ伯爵は何一つ反論するとこなく、全ての罪を認めていく。
それがまた、何とも不気味だった。
そのやり取りがどれ位続いただろうか。

エドアルドが跪くトゥーリ伯爵を見据えたまま、ゆっくりと口を開いた。

「では、最後に聞こう。………先代のジャクウィント侯爵夫妻の事故死について、何か知っていることはあるか?」

エドアルドの言葉に、トゥーリ伯爵ははっとしたように瞠目すると、息を呑んだのが見えて、ラファエロはエメラルド色の瞳をしっかりとトゥーリ伯爵へと向けた。

「………何故、私にお訊ねになるのでしょう?」

先程までは一切の感情が消えていた伯爵が、明らかに動揺しているように見えた。
妻子の命よりも、亡くなった妹夫婦の、ジャクウィント侯爵家に纒わる呪いの噂のほうが重要だとでも言うのだろうか。

「答える気はないか?…………では質問を変えよう。ジャクウィント家の呪いについては耳にしたことがあるだろう。………そなたはそれを、信じているか?」

エドアルドの問い掛けに、今度は
はっきりとトゥーリ伯爵の表情が強張った。

「………まさか、陛下ともあろうお方が、そのような噂話を真に受けていらっしゃるとは………」
「では、伯爵は噂話だと思っていらっしゃらないということですか?」

ラファエロはすかさず、いつもどおりの穏やかな笑顔を浮かべながらそう問いかけた。
トゥーリ伯爵の言葉の隙が見えた瞬間を見逃すはずがなかった。
エドアルドの質問に、本心を漏らすのを待っていたのだ。

先程までとは明らかに異なる反応が帰ってきたことに、ラファエロは内心ほくそ笑んだ。
上手く化けたつもりの狸が、ようやく尻尾を出し始めたようだった。

「…………少なくとも、呪いではないと、私は思っております」
「呪いでない、という事はただの偶然とお考えですか?………それとも…………?」

誘導尋問でもするかのように、ラファエロが柔らかな口調で問い詰める。

「………妹夫婦の事故に関して言えば、あれは人為的な事故でした」
「何故、そう断言出来る?」

エドアルドが問い詰めると、トゥーリ伯爵の顔から一気に動揺が消え、元通りの無表情へと変わっていくことにラファエロは気が付いた。

「………それ以上は、申し上げられません」

きっぱりと、トゥーリ伯爵が言い放った。

「言えない?何故だ?」

エドアルドが睨みつけても、トゥーリ伯爵も怯む様子すら見せない。

「私がお話できるのは、ここまでなのです」

それは何とも不可解な言い回しに聞こえた。
それ以上の事を知らないという意味なのか、………それとも黒幕であろう人物に口止めされていて話せないという意味なのか、分からない。

「………どういう、事だ?」

エドアルドも同じように感じたらしく、訝しげに眉を顰める。

「ですから、私からはこれ以上お話出来る事はございません」

再び、無表情の仮面を被ったトゥーリ伯爵は頑なな態度だった。

「………では、誰からならばそれ以上の話が聞けるのかは知っているのだな?」

普段よりも低いエドアルドの声に、トゥーリ伯爵の深い蒼色の瞳が彷徨う様を見つめ、ラファエロは伯爵が一体何を考えているのか、思いを巡らせた。
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