猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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ラファエロ編

31.トゥーリ伯爵家の断罪(2)

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だが、伯爵夫人が喚く横で、トゥーリ伯爵は無表情のまま、妻を庇うこともせずにいるのは不思議だった。

二人を説得しようとするクラリーチェに対して手を上げた愛娘が刃を向けられても、微動だにしない。
確かに報告ではトゥーリ伯爵夫妻の仲は冷え切っているとあったが、これではまるで妻子にまるで関心がないようだとラファエロは思った。

「何で………何でお前のような娘が!どうしていつもマリエッタばかりが!!」

断罪が進むにつれ、伯爵夫人は取り乱す様子を、ラファエロはどこか冷めた気持ちで見つめる。

伯爵夫人は、クラリーチェの父に想いを寄せていたらしい。だが、彼女の想いが叶うことはなく、それを全てクラリーチェの母のせいにし、クラリーチェの両親亡き後はクラリーチェを苦しめる事でその鬱憤を晴らそうとしていたらしい。

ラファエロは慟哭するトゥーリ伯爵夫人を、惨めだとは思っても、憐れだとは思えなかった。

自分の思い通りにならないことなど、世の中にはいくらでもある。
それなのに、自身ではなんの努力もせず、己の不幸を、己の悲運を他人ひとのせいにして嘆き、挙げ句の果てに、抵抗できない状態のクラリーチェを虐待し続けていた。

努力で何とかなるものではないが、夫人の言動は、ラファエロには逃げにしか見えなかった。

「…………っ、何よ!お前に何が分かると言うの?!私の何が………、何がマリエッタに劣っていると言うの………?!」

クラリーチェの言葉は、伯爵夫人には届かなかったようだった。
おそらく彼女の人生の大半を占めてきた強烈な劣等感は、そう簡単に覆せるものではないのだろう。

「…………地下牢に、閉じ込めておけ」

冷え切ったエドアルドの声に、近衛騎士たちが従う。

大声で泣き喚く伯爵夫人と、エドアルドの一言で抜け殻のようになってしまったデボラが、縛り上げられたまま連行されていく様子を眺め、その傍らで微動だにしないトゥーリ伯爵に視線を移した。

不気味な程に大人しい伯爵から情報を引き出すことが出来れば、ブラマーニやフェラーラの企てを公にし、追放する事ができる。

エドアルドやラファエロが調ベタ以外の、当事者の証言が出てこれば、事態は大きく動くだろう。
エドアルドやラファエロの望む『粛清』を行うことが出来るのだ。

(さて、あとはトゥーリ伯爵が大人しく口を割ってくれれば………の話ですが………)

ラファエロはちいさく溜息をつくと、エドアルドが再び口を開くのを待った。
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