猫被り令嬢の恋愛結婚

玉響

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ラファエロ編

34.トゥーリ伯爵の最期

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「………あの事故は、ブラマーニ公爵及びフェラーラ侯爵の企てによるものです」

長い沈黙の後、トゥーリ伯爵は漸く口を開いた。
やはり、トゥーリ伯爵は全てを知っていたのだと納得しながらも、ラファエロは彼から感じる違和感を払拭出来ずにいた。
黒幕についてこんなにも簡単に口を割るのならば、どうして呪いの事は説明をしないのか。
ラファエロは更にじっとトゥーリ伯爵の表情を見つめる。

「………証拠をお見せしながら、お伝えしましょう」

暫くエドアルドとのやり取りが続いた後、トゥーリ伯爵は目を伏せた。

「一度自邸に戻らせて頂ければ、陛下が必要としているものを、お渡しできます。………処刑を免れようとなど、考えてはおりません故、最後に御慈悲を」
「………よかろう。だが、万が一の事も想定してラファエロと近衛騎士を数人、監視役として付ける」

唐突に話を振られて、ラファエロは些か驚くが、すぐに頷いて、近衛騎士達に指示を出し、出発の準備をさせる。
今は従順にしているが、腹の中が読めないこの男が信用ならないのは間違いない。
確実に、証拠を入手し、かつ証人となりうる伯爵を逃さない為の手立てとして、自分を監視役に指名したのだろう。

「頼んだぞ、ラファエロ」
「はい、兄上」

兄の期待に応えるべく、ラファエロは力強く頷いた。


だがその数時間後、ラファエロは深い絶望を味わうこととなる。

屋敷までの道程も、トゥーリ伯爵は実に静かだった。

「到着したようですね。では、伯爵。参りましょうか」

逃げ出すような素振りは全く見せない事に、ラファエロは少しだけ安堵した。

「殿下、すぐに証拠をお待ちいたします。こちらでお待ち下さい」

トゥーリ伯爵は私室の前まで来ると、扉を開けてから、椅子を用意した。
どうやら証拠は私室と繋がった寝室にあるようだった。

「分かりました。では、待たせて頂きます」

この部屋は三階。扉もこの部屋にしかないことを確認してから、ラファエロは頷く。
屋敷の外にも騎士たちを配置し、逃げ出せないようにはしてあるし、協力者がいる様子もない。
それに物音一つ立てずに脱出することは不可能だろう。

ラファエロが用意された椅子に腰を降ろしたのを見届けると、トゥーリ伯爵は扉を閉めた。
その時、最後に見えた伯爵の表情は信じられない位に穏やかなものだった気がした。

窓から差し込む陽の光は傾き掛け、廊下に長い影を作っている。
こうして自分がブラマーニ公爵家を壊滅させる為に動いている間も、リリアーナはジュストによって苦しめられているのだろうかと、ふと考える。
あの令嬢ならば、反撃くらいはするだろうが、それでも心は傷ついているだろう。
取り留めもなくそんなことを考えていると、部屋の中からぎしり、ともの音が聞こえた。

「伯爵?」

不審に思ったラファエロが扉越しに声を掛けるが、返答はなかった。

「入りますよ」

もう一度声を掛け、扉を開けたラファエロは、衝撃的な光景を目の当たりにすることになったのだった。
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