ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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「僕がルイーザ様の住まいへ行った当初、ヴィクトリアは僕に会おうとしませんでした」
 ウォルターは俯いて言った。
「ああ、なるほど。『ヴィクトリアは無事』『しばらくこちらに留まる』『爆発は東国の盟約尊重派の企て』と知らせを受けてはいたが…それでウォルターはなかなか戻って来なかったのか」

 ベンジャミンがため息混じりに言う。
「ええ。最初はルイーザ様やステファン兄上を仲介に伝言のやりとりで、二日後にはヴィクトリアが閉じこもった部屋の扉越しに話し、実際ヴィクトリアに会えたのは五日後です」
「何故そんなに会うのを拒んでいたんだ?」
 ラウルがそう問うと、ウォルターは苦笑いを浮かべた。
「僕に会えば強引に連れ戻されると思ったようです。誘拐されたのに『助け出される』ではなく『連れ戻される』と表現するのもおかしいですが、王妃派の暗殺未遂の後に所謂東国派に誘拐されて…それはステファン兄上の企みで危険はなかったとはいえ、それだけヴィクトリアの心は疲弊していたのですね」
 ウォルターは苦笑いしながら俯いて言う。

「顔を合わせた途端、泣き出して『もう戻りたくない』と訴えられました」
「戻りたくないとは?」
 ラウルが首を捻ると、ウォルターは一瞬唇を引き結び、そして言った。
「僕の婚約者には戻りたくないと」

「……」
「そうか…」
 ラウルは押し黙って下を向き、ベンジャミンは頷きながらため息混じりだ。
「とにかく戻るのは嫌だと言うので、今もルイーザ様とステファン兄上にヴィクトリアの身柄を預けています」
「…そうか……」
「……」

 暫く沈黙が続いた後、ウォルターが顔を上げる。
「…僕がヴィクトリアとの婚約を解消すれば、東国行きが容易くなりますね」
「!」
 ウォルターが言うと、ラウルがパッと顔を上げた。
 それを見たベンジャミンは椅子の背もたれにもたれると、足を組む。
「ラウル殿下は盟約尊重派からの要求を飲むつもりがおありですか?」
 
 ウォルター不在の間、ベンジャミンとラウルは負傷していたからと何もしなかった訳ではない。
 ウォルターからの知らせを受け、頭を打ったベンジャミンは、安静にしながらも間諜を用い、東国の盟約尊重派と繋がるこの国の東国派の貴族へ圧力を掛け、背中の打撲と足首を骨折したラウルは自国の盟約尊重派の有力者を洗い出し、要求を引き出したのだ。
「粉塵爆発など、鉱山ではいつどこで起こっても不思議はないです。そうそれがたまたま王族の視察時に起ころうが。そうですよね?王太子殿下」
 ラウルに呼び出された尊重派の重鎮貴族は、太々しくそう言った。
 盟約は果たされないままの状態、しかも東国から王女を輿入れさせただけの今のままでは両国の関係は不均衡だ。それでなくても銀を採取する坑道は東国側の方の数が少なく、運搬にも手間暇が掛かっている。いつか銀の採取を独占され、東国が締め出されてしまうのではないかという懸念があるのだ。
 東国の王女が出奔したせいで盟約が果たされていない事は理解しているが、それから時間は経過しているのだから、早急にこの不均衡を是正しなければならない。
 そう主張した尊重派の貴族はラウルに「要求」を突き付ける。
「王女セラフィナをラウル王太子の正妃とせよ」

「それは……」
 ベンジャミンの問いに、ラウルは言葉を詰まらせた。
「僕は嫌です」
 憮然としてウォルターが言うと、ラウルはウォルターを見る。
「セラは僕のかわいい妹です。いくら王太子の正妃とは言え、側妃の方へ愛情がある相手に嫁ぐというのは…関わる誰もが複雑な思いを抱くものです。もちろん僕は母上が不幸であったとは思いませんが、母上も娘を自分と同じ立場に立たせたくはないでしょうしね」

 王と互いに想い合う側妃、そこに正妃として嫁する───
 父上は母上にも僕とセラにも愛情を注いでくださったと思う。それでも、やはり僕はベンジャミン兄上やステファン兄上とは「違う」と感じていた。おそらく兄上たちにも僕たちへの違和感はあるだろう。セラはただ一人の王女だから兄上たちと同じ王子である僕との感じ方は違うのだろうけど…
 それに母上は父上や側妃様と歳が離れていて、兄上たちと僕も歳が離れている。それは僕たちが互いに抱く違和感を正当化する言い訳にもなった。
 つまり「兄弟とはいえ、立場も違うし、歳も離れているし、接点が持てなくても、わかりあえなくても当然だ」と言う自己弁護だ。
 しかし、セラとラウル殿下の婚約者カルロッテ嬢は四歳しか違わない。その分軋轢もあるだろう。



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