ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

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「ヴィクトリア様、お労しい…」
「お顔に傷が!?何て事!」
「無理はしないでくださいね」
 講堂に入るとヴィクトリアに扮したアイリスとウォルターの周りにたくさんの女生徒たちが寄って来た。
「ありがとうございます」
 誰が誰だかわからないので下手な事を言わないように、アイリスはただ「ありがとうございます」と繰り返す。
「夏期休暇明けには学園に復帰なさるのですか?」
「ええ。おそらく…ご心配いただきありがとうございます」
「大変な事故でしたわね」
「ええ。ご心配ありがとうございます」
「馬車に乗るのが怖くなったりなさいませんか?」
「大丈夫ですわ。ありがとうございます」
 …口角上げすぎて、そろそろ顔の筋肉がこわばってきそうだわ。
「ヴィクトリアはまだ本調子ではないので、疲れてしまうからそろそろ勘弁してやってくれるかな?」
 ウォルターがアイリスの肩に手を乗せて笑顔で言うと、アイリスの周りの女生徒たちは
「そうですわね」
「ヴィクトリア様お大事に」
 と言いながら離れて行った。

「頬が攣るかと思いました…」
 さりげなく手で頬を押さえながら、小声でアイリスが言う。
「上手に受け答えしていたよ」
 ウォルターがアイリスの耳元で小声で言った。

 開会式の前、ザワザワと集まって来た生徒たちがあちこちで輪を作り、談笑している。
 皆と同じように、ウォルターとアイリスとセラフィナが話していると、赤い髪に黒の夜会服の男子生徒がウォルターに話しかけた。
「ウォルター殿下、少しいいですか?」
「デリック?」
 ウォルターに耳打ちするデリック。
 頷いたウォルターはアイリスに言う。
「少し外すよ。知らない人に話し掛けられたらセラに任せてね」
「はい」
「セラ、ヴィクトリアを頼むよ」
「はーい」
 デリックが視線を動かし、アイリスと目が合った。
 え?
 デリックはほんの少し口角を上げると、アイリスから目を逸らしてウォルターの方を向く。
 アイリスはデリックと並んで歩いて行くウォルターの後姿を眺めた。

「余程急ぎの用なのかしら?」
 セラフィナが首を傾げる。
「デリック様って、ウォルター殿下の側付きの方よね?」
「ええ。お兄様の側付きで学友ね。アイリスは話した事なかったかしら?」
「ないわ。学園ではウォルター殿下ともほとんど話す事ないもん」
 学年が違うと学園で顔を合わせる機会あまりない。アイリスとウォルターも、見掛けると互いに挨拶はするが、いち伯爵令嬢であるアイリスが王子であり婚約者もいるウォルターと親しく話す事は憚られるのだ。
「そっか。デリックがお兄様の側付きになったの、学園に入ってからだものね」
 話した事ないのに、何だか意味あり気に見られたような…?
 ウォルター殿下の側付きだから、私が本当のお姉様じゃないのは当然知ってるのよね?

「セラフィナ殿下、今日はアイリス様はどうなさったのですか?」
 セラフィナに話し掛けて来たのは、アイリスも知るヴィクトリアの友人ドリアーヌだ。
「それがアイリスは少し体調を崩したようで…ヴィクトリア様に付き添いたかったと悔しがっていたわ」
「そうなのですね」
 ドリアーヌはアイリスの方をチラッと見る。
 ドリアーヌ様って、お姉様と結構仲良しだったわよね?そつなく対応しなくちゃ疑われちゃうかも。
「ヴィクトリアったら、全然連絡くれないんだもの。心配したわよ?」
「あ…ごめんなさい。なかなか体調が安定しなくて…」
「そう。大怪我をしたのだから仕方がないわよね」
「ええ…」
「ヴィクトリアよりアイリス様の方が軽傷だったのね?学園に復帰しているのをお見掛けしたわ」
 ドリアーヌが上目遣いでアイリスを見ながら言った。
「そうなの」
 下から覗き込まれると、前髪で隠してる瞳が見えちゃいそうでドキドキする。
 アイリスは態と目を細めてニコリと笑う。

「そろそろ開会式が始まるかしら?」
 セラフィナがさり気なくアイリスとドリアーヌの間に入ってくれて、アイリスは心の中でホッと息を吐いた。
「そうですね。私も向こうへ戻りますわ」
 ドリアーヌは生徒たちがたくさん立っている舞台の前の方へ視線を向けながら言う。
 ドリアーヌのパートナーか、一緒に来た友人がそこに居るのだろう。
 セラフィナとアイリスに会釈をして、アイリスの横を通る、その時、ドリアーヌがアイリスにだけ聞こえるように小声で言った。

「ヴィクトリア、賭けに負けたのね」



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