ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん

文字の大きさ
14 / 80

13

しおりを挟む
13

 舞踏会や卒業パーティーでは、ドレスや装飾品は各々が用意をするが、全員が寮で支度をして、婚約者や恋人のいる者は男性が女子寮へ迎えに来る事となっており、令嬢は自分の家の侍女やメイドを寮に呼び支度をし、侍女やメイドのいない家で学園が用意した王宮のメイドが支度を手伝っている。
 舞踏会や卒業パーティーは学生らしく昼間の開催なので、寮は当日は朝から支度で大騒ぎだ。
 女子寮は舞踏会の会場の講堂に近いので、歩いて向かう事になる。

「アイリス?」
 俯いているアイリスにセラフィナが話し掛け、アイリスはハッとして顔を上げた。
 目の前の鏡に映るアイリスの髪は暗金色で、複雑な形に編み込まれている。
「お姉様…」
「ね。髪色が一緒だと本当にヴィクトリア様みたいだわ」
 アイリスの横でセラフィナが感心したように言った。

「ヴィクトリア様、ガーゼをお貼りします」
 ガードナー家からアイリスの支度のために寮へ来た侍女のケイシーは無表情で言う。
「…ん」
 ここは寮のヴィクトリアの部屋だ。
 怪我がまだ癒えないため学園に復帰はしていないが、夏期休暇中にある東国の王太子を迎える行事へは出席しなければならないヴィクトリアは、リハビリのため学園の舞踏会へ出ると言う設定になっているため、ケイシーはこの部屋に来てからずっとアイリスの事を「ヴィクトリア様」と呼んでいるのだ。
「ああ、そうね。私もヴィクトリア様って呼ばなきゃ」
「……」
 セラフィナがそう言うと、アイリスは頷いた。

 そうよね。私、今からお姉様になるんだもん。ケイシーだけじゃなく、セラやウォルター殿下にも「ヴィクトリア」って呼ばれるんだわ。
 …何だろう、何となく胸が苦しい?
 と、言うかザワザワして落ち着かない感じ。
 でもお姉様とは言え、別人の振りをするんだから平常心ではいられなくて当然か…
「もうそろそろお兄様が迎えに来られる頃かしら?」
 セラフィナが言う。

 「いいか、アイリス。ウォルター殿下は他ならぬヴィクトリア様の婚約者なんだからな。アイリスはヴィクトリア様の代役に過ぎない事、よく弁えておけよ」
 ジェイドに言われた台詞が頭に甦った。

 コンコン。
 ノックの音が部屋に響く。
「お兄様かしら」
 セラフィナが言うと、アイリスの心臓がドキンッと鳴った。
 ジェイドが変な事言うから、意識しちゃうじゃない。
 アイリスは小さく首を横に振る。
 ケイシーが扉を開けると、ウォルターが部屋に入って来た。
「ヴィクトリア…」
 髪を染めて顔にガーゼを貼ったアイリスを見て、ウォルターは目を見開く。

「やはり、よく似ているね」
「はい。自分でもそう思いました」
 アイリスがそう言うと、ウォルターは口角を上げた。
「ヴィクトリアはまだ療養中と言う事になっているし、今日は僕とダンスを一曲踊ったら退出しよう」
「わかりました」
「行こうか」
 ウォルターがアイリスへ手を差し出し、アイリスはその手に自分の手を乗せる。

 ウォルターにエスコートされて、寮を出て舞踏会の会場である講堂までの石畳の小径を歩いていると、アイリスの履いたパンプスのヒールが石畳の隙間に引っかかった。
「あっ」
「おっと」
 ウォルターがよろけたアイリスの腰に手を回し、転けないように支える。
「も、申し訳ありません」
 うひゃ~!会場内じゃなくて良かったけど…こしっ!腰に手が!
「もしかして足の怪我が痛い?」
 アイリスの腰を抱くように支えながら、心配そうにウォルターが言った。
 アイリスは顔をブンブンと横に振る。
「いえ、あの、靴が引っ掛かっただけです」
 ウォルターは微笑みながら少し首を傾げた。
「そう?なら良かったけど、怪我はもう痛まない?」
「もうほとんど痛みはありません」
「そう…痕が残ったりは?」
「まあ、少しは…」
 アイリスは苦笑いしながら言う。
 本当の処、結構な痕が残るだろうけど、生きてるだけでも奇跡だもん。お姉様の事を思えば、足の傷痕なんてドレスやブーツに隠れちゃうし、気にしないわ。

「ガーゼのせいで視界が悪いんだろう?見える方の目を前髪で隠しているし。だからしっかり僕に掴まっていて」
 ウォルターはアイリスの方へ腕を差し出した。
「ありがとうございます」
 アイリスはウォルターの前腕へ手を乗せる。
 するとウォルターはアイリスの手を握ると、アイリスの手が自分の腕の下側を通るように動かした。
「この方が咄嗟の時に捕まれるから」
 これって、腕を組んでる状態よね?
 私の視界が悪いのは一目瞭然だから誰も咎めたりはしないだろうけど、普通のエスコートより身体が近付いて…恥ずかしい。
 でもお姉様とウォルター殿下は婚約者同士だもん。このくらいの距離は普通なんだわ。きっと。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「今とっても幸せですの。ごめんあそばせ♡」 捨てられ者同士、溺れちゃうほど愛し合ってますのでお構いなく!

若松だんご
恋愛
「キサマとはやっていけない。婚約破棄だ。俺が愛してるのは、このマリアルナだ!」 婚約者である王子が開いたパーティ会場で。妹、マリアルナを伴って現れた王子。てっきり結婚の日取りなどを発表するのかと思っていたリューリアは、突然の婚約破棄、妹への婚約変更に驚き戸惑う。 「姉から妹への婚約変更。外聞も悪い。お前も噂に晒されて辛かろう。修道院で余生を過ごせ」 リューリアを慰めたり、憤慨することもない父。マリアルナが王子妃になることを手放しで喜んだ母。 二人は、これまでのリューリアの人生を振り回しただけでなく、これからの未来も勝手に決めて命じる。 四つ違いの妹。母によく似たかわいらしい妹が生まれ、母は姉であ、リューリアの育児を放棄した。 そんなリューリアを不憫に思ったのか、ただの厄介払いだったのか。田舎で暮らしていた祖母の元に預けられて育った。 両親から離れたことは寂しかったけれど、祖母は大切にしてくれたし、祖母の家のお隣、幼なじみのシオンと仲良く遊んで、それなりに楽しい幼少期だったのだけど。 「第二王子と結婚せよ」 十年前、またも家族の都合に振り回され、故郷となった町を離れ、祖母ともシオンとも別れ、未来の王子妃として厳しい教育を受けることになった。 好きになれそうにない相手だったけれど、未来の夫となる王子のために、王子に代わって政務をこなしていた。王子が遊び呆けていても、「男の人はそういうものだ」と文句すら言わせてもらえなかった。 そして、20歳のこの日。またも周囲の都合によって振り回され、周囲の都合によって未来まで決定されてしまった。 冗談じゃないわ。どれだけ人を振り回したら気が済むのよ、この人たち。 腹が立つけれど、どうしたらいいのかわからずに、従う道しか選べなかったリューリア。 せめて。せめて修道女として生きるなら、故郷で生きたい。 自分を大事にしてくれた祖母もいない、思い出だけが残る町。けど、そこで幼なじみのシオンに再会する。 シオンは、結婚していたけれど、奥さんが「真実の愛を見つけた」とかで、行方をくらましていて、最近ようやく離婚が成立したのだという。 真実の愛って、そんなゴロゴロ転がってるものなのかしら。そして、誰かを不幸に、悲しませないと得られないものなのかしら。 というか。真実もニセモノも、愛に真贋なんてあるのかしら。 捨てられた者同士。傷ついたもの同士。 いっしょにいて、いっしょに楽しんで。昔を思い出して。 傷を舐めあってるんじゃない。今を楽しみ、愛を、想いを育んでいるの。だって、わたしも彼も、幼い頃から相手が好きだったってこと、思い出したんだもの。 だから。 わたしたちの見つけた「真実の愛(笑)」、邪魔をしないでくださいな♡

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

地味な私を捨てた元婚約者にざまぁ返し!私の才能に惚れたハイスペ社長にスカウトされ溺愛されてます

久遠翠
恋愛
「君は、可愛げがない。いつも数字しか見ていないじゃないか」 大手商社に勤める地味なOL・相沢美月は、エリートの婚約者・高遠彰から突然婚約破棄を告げられる。 彼の心変わりと社内での孤立に傷つき、退職を選んだ美月。 しかし、彼らは知らなかった。彼女には、IT業界で“K”という名で知られる伝説的なデータアナリストという、もう一つの顔があったことを。 失意の中、足を運んだ交流会で美月が出会ったのは、急成長中のIT企業「ホライゾン・テクノロジーズ」の若き社長・一条蓮。 彼女が何気なく口にした市場分析の鋭さに衝撃を受けた蓮は、すぐさま彼女を破格の条件でスカウトする。 「君のその目で、俺と未来を見てほしい」──。 蓮の情熱に心を動かされ、新たな一歩を踏み出した美月は、その才能を遺憾なく発揮していく。 地味なOLから、誰もが注目するキャリアウーマンへ。 そして、仕事のパートナーである蓮の、真っ直ぐで誠実な愛情に、凍てついていた心は次第に溶かされていく。 これは、才能というガラスの靴を見出された、一人の女性のシンデレラストーリー。 数字の奥に隠された真実を見抜く彼女が、本当の愛と幸せを掴むまでの、最高にドラマチックな逆転ラブストーリー。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

処理中です...