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一章 本編
44 再会
しおりを挟む帰りの車内。
今日釣れたのはクロ三匹、アジゴ八匹、イシモチ十五匹。
うちと龍君のお家、志崎君のお家にそれぞれクロを一匹ずつ。アジゴは全部志崎君のお家に。イシモチは全部龍君のお家へと分配された。
志崎君喜んでたなぁ。
それにしても、また志崎君と龍君の間に座る事になるなんて。
私は端に座りたかった。できれば真ん中には志崎君に座ってほしかった。けれど志崎君も端がいいと言った。このままでは龍君が真ん中になる。
できれば龍君と距離を置きたかったのに。何でかって言ったら、私が前の人生での記憶を思い出したからだ。彼に近付き過ぎないようにこの人生では生きようと思っている。
どちらにしても龍君の隣になりそう。それならば少しでも志崎君と近い真ん中に座る事を選んだ。
行きと同じで私の左隣に座る志崎君。彼は疲れたのかドアに頬杖をついて目を閉じている。起こしたら悪いので話しかけないようにしていた。
窓の外はもう大分暗い。行きにも通った山の多い道を車は進む。
父と龍君のお父さんが今日の釣りの話や、今はどこで何が釣れる等の話で盛り上がっている。
志崎君の明るめの黒髪を何となく眺めていた。
そんな時また右手に違和感が。
龍君を見る。彼も窺うように、真剣な時にする眼差しを向けてくる。
右手が、今度は小指どころではなく繋がれていた。
しかもこれは俗に言う『恋人繋ぎ』というやつだ。
今までの私であったなら戸惑ったりドキドキしたりしていたかもしれない。けれど……。
「離して」
私は龍君の手を払った。彼の目が見開かれている。
……もう私は今までの私ではないのだ。何で龍君にドキドキしていたのか理由を知ってしまった。彼に必要以上に近付く事はできない。
龍君の表情を知るのが怖くて、前方を向き俯いた。
「由利花ちゃん……?」
「ごめんね。私、志崎君が好きだから」
左隣で眠っている筈の志崎君の肩が一瞬揺れたように見えた。
一部始終を聞いていたであろう龍君のお父さんがボソリと言った。
「青春だなぁ」
小学校前に到着した。
車を降りて志崎君を見送った後、街灯の下で龍君に尋ねられた。
「由利花ちゃん……もしかして何か思い出したの?」
的を射た質問に、彼を振り返った。夜風に私の前髪が揺れる。
街灯の明かりに浮かぶ彼の出で立ち。その目は探るように細められ妖しく光った。
「……うん。久しぶりだね、龍君。あの後、元気にしてた?」
龍君は顔から色がなくなったみたいになって静止している。しばらく経って私の言葉を吞み込んだように目を瞠り口をあんぐりと開けた。やがてその唇は震え出し、大きく開かれた目から涙が流れた。
踏み出された足はゆっくり……、近付くにつれて急いた足取り。
最後にはすごい勢いでぶつかってきた。
まるで私が消えてしまうのを恐れているような様相の彼に捕らわれ、背に回された腕を解く事はできなかった。
龍君は声を上げて泣き出した。彼がこんなに酷く泣いているのを初めて見た。
何とか左手を拘束から解いて、彼の頭を撫でた。
少し離れた壁際で缶コーヒーを飲みながら話をしていた父らが何事かとこちらの様子を見に来た。うちの父はぎょっとした顔。龍君のお父さんは微笑んでいて、その呟きが聞こえた。
「若いっていいなぁ」
私は記憶がなくて勘違いしていたのだ。今のこの人生は二度目ではなかった。
三度目の人生だったのだ。
透は一度目の人生での夫。
彼は……龍君は二度目の人生での『夫』だった。
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