上 下
44 / 49
第2部 第1章 ケース オブ ショップ店員・橋姫『恋するあやかし』

二 初めての東京国立博物館

しおりを挟む
 二

「すごい。まるで外国の舞踏会会場みたい」

 舞踏会会場など行ったことなかったが、想像以上の見事な造りに芽依は圧倒された。
 大理石の大階段に吹き抜けの格子天井。はめ込まれたガラスからは柔らかな光が館内へと注がれている。

「すごい……」

 博物館内は重厚な歴史を感じさせる雰囲気が広がっていた。
 とはいえ、それは京都を代表する仏閣のような歴史感ではなく。明治期大正期以降の日本に代表されるような洋風混じりに分類されるような雰囲気であり、開かれた博物館ながらも、とりわけ敷居の高さを感じさせるものがあった。

(こんなに厳かな博物館なら、きちんとした服を着てくればよかった)

 芽依は黒の5分袖の黒の薄ニットにグレーのフレアスカート。そしていつでも羽織れるようにブルーのカーディガンを肩にかけつつも地味な配色の装いであった。
 対する天童は、ラフな白シャツにくすみブルーのジャケット、そしてくるぶしが見えるアースブルーのパンツを履き、こげ茶色のオックスフォードシューズを履いていた。
 さらに天童の憎いところは、ジャケットの袖をまくり上げて、チェック柄の裏地を見せているところだ。
 そして鞍馬は白Tに黒のジレを合わせ、ダメージジーンズと黒ブーツといつも通りの格好ながらも、こちらも爽やかな顔立ちで抜け感を持ち合わせていた。
 ラフでありながらも、お洒落心を忘れていないあやかし。さらには顔の良さまで持ち合わせていることに、芽依は二人に嫉妬した。

(どうしたら、こなれ感って持てるようになるの?)

 上京して4年が経とうとしているというのに、芽依は東京を追い出されかけている。

(こちとら首の皮一枚、なんとか繋がっている人間か……)

 すると、天童が気付いて芽依に声をかけた。

「阿倍野芽依、何してんだよ。早く来いよ」
「あ、はい……」

 芽依は天童に促され、二人の後を追いかけた。


 ***

 天童は一階左手から始まる展示室へと入っていった。
 部屋に並ぶ展示ケースの中には、かつての貴重そうな調度品や彫刻品が展示されている。
 だが、天童はそれらに目もくれず、そのまま展示室を闊歩していく。

「あの天童さん、このあたりの展示は見ないんですか?」
「ああ、その辺は小物だ。まあ気が向いたら見ておけ」
(小物?)

 そうはいうが、展示ケース前に掲げられたプレートには重要文化財の文字が見て取れた。

(重要文化財って、相当貴重ってことだよね?)

 だが、美術品の見方もわからぬ芽依は、天童の後を追いかけるしかなかった。
 展示室は非常に広々としていた。そして天井も高い。
 話声すら気をつけなければならないほど静かな空間に、作品は厳かな空気を放ちながら展示されている。それはまるで、美術品たちが静かに休息をしているようでもあった。
 展示室は部屋同士が繋がっており、部屋が変わると展示物も違うものが展示されていた。
 どうやらここは、部屋をめぐりながら日本美術の流れを感じられる配置がされているらしい。
 だが天童の足は止まることなく、目指す場所があるのか、靴音を鳴らして闊歩していく。
 そして、他の部屋よりもやや狭く薄暗い部屋にはいると、天童はようやくその足を止めた。
 そこは、刀剣が陳列されている部屋だった。
 天童はとあるガラスケースの前で腕を組んで立ち止まっている。

「見ろ、阿倍野芽依。これが俺の首を切り落とした太刀、国宝童子切安綱だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』

あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾! もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります! ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。 稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。 もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。 今作の主人公は「夏子」? 淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。 ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる! 古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。 もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦! アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください! では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

迷子のあやかし案内人 〜京都先斗町の猫神様〜

紫音@キャラ文芸大賞参加中!
キャラ文芸
【キャラ文芸大賞に参加中です。投票よろしくお願いします!】 やさしい神様とおいしいごはん。ほっこりご当地ファンタジー。 *あらすじ*  人には見えない『あやかし』の姿が見える女子高生・桜はある日、道端で泣いているあやかしの子どもを見つける。 「”ねこがみさま”のところへ行きたいんだ……」  どうやら迷子らしい。桜は道案内を引き受けたものの、”猫神様”の居場所はわからない。  迷いに迷った末に彼女たちが辿り着いたのは、京都先斗町の奥にある不思議なお店(?)だった。  そこにいたのは、美しい青年の姿をした猫又の神様。  彼は現世(うつしよ)に迷い込んだあやかしを幽世(かくりよ)へ送り帰す案内人である。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...