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第2部 第1章 ケース オブ ショップ店員・橋姫『恋するあやかし』
三 誇り高き、酒呑童子
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三 誇り高き、酒呑童子
「こ、国宝!?」
芽依は天童の横に並び、ガラスケースの中に納められている刀を眺めた。
「まさか。本物の太刀ですか?」
「あたりまえだろう。俺はこいつに首をはねられた」
誰かが聞いていたら、白い目で見られなくもない会話が繰り広げられる。
幸い、部屋には誰もおらず、芽依は展示ケースの前に貼り付けてある説明文に目を通す。
(国宝・童子切安綱。日本を天下五剣のうちの一振。酒呑童子討伐の際に源頼光が使用したとされる伝説の太刀。のち、足利家を経て、豊臣秀吉、徳川家康へと伝わったとされている。え、なにそれ。すごくない?)
山型に整えられた刀掛けに黒いシルクの布地が被せられ、そこに鎮座する太刀は、美しい弧を描いて光り輝いていた。
あまりの美しさを前に、芽依は息を呑む。
「千年の時を越えても尚、こうして俺の名は人間にその名を轟かせている。あいつもさぞ満足だろう」
「あいつって、誰ですか?」
鞍馬が不思議そうに尋ねと、天童は得意げに答えた。
「源頼光だ。俺がいなければあいつは偉人にはなれなかった。俺がいたからこそ、あいつはその名を残すことが出来ているんだ。つまりは俺のおかげというわけだ」
「なるほど。天童さん、すごいですね!」
いや、酒呑童子の名が今日まで伝わっているのはむしろその逆、源頼光のおかげなのであろう。
酒呑童子は人間に悪さ働いたあやかし。酒呑童子は酒に酔ったところを源頼光によって討伐された書かれている。
芽依はそう思いながらも口にはせず、その太刀の魅力にとりつかれていた。
「こんなにすごいんだ……。刀剣って」
「国宝だなんて。天童さん、すごいですね」
「そうだろう。さすが天はよくわかってくれるな」
天童はガラスケースすれすれに顔を近づけ、腕組みをしたまま刀を凝視している。
「実に美しく、力強さに溢れる一振り。今日はやけに輝いて見える。俺の来訪に喜んでいるようだぜ」
おそらく、天童は己の首を取られたとされるこの太刀何度も見に来ているのだろう。
芽依はその奇妙な縁を天童と太刀の間に感じていた。
「阿倍野芽依。もっとよく見ておけよ。お前はこれから田野前の助手になるんだ。この刀を知らずして、美術は語れねえぞ」
「は、はい……」
(でも、田野前さんの美術館は西洋美術がメインだって言ってた気がするけどな……)
それにしても、昔の日本人はこれで人を斬り合っていたのか。それが素直な感想だった。
だが何事も勉強だ。無職となり、しかも経験のない芽依をスカウトしてくれた田野前には感謝すべきだ。
そして今日、ここへ連れ出してくれた天童にも。
いまや芽依はあやかしなしでは生きていけない生活になりつつあった。
(しっかり勉強して、期待に答えなければ!)
「よし、次だ。ついてこい」
「えっ。まだあるんですか?」
「こ、国宝!?」
芽依は天童の横に並び、ガラスケースの中に納められている刀を眺めた。
「まさか。本物の太刀ですか?」
「あたりまえだろう。俺はこいつに首をはねられた」
誰かが聞いていたら、白い目で見られなくもない会話が繰り広げられる。
幸い、部屋には誰もおらず、芽依は展示ケースの前に貼り付けてある説明文に目を通す。
(国宝・童子切安綱。日本を天下五剣のうちの一振。酒呑童子討伐の際に源頼光が使用したとされる伝説の太刀。のち、足利家を経て、豊臣秀吉、徳川家康へと伝わったとされている。え、なにそれ。すごくない?)
山型に整えられた刀掛けに黒いシルクの布地が被せられ、そこに鎮座する太刀は、美しい弧を描いて光り輝いていた。
あまりの美しさを前に、芽依は息を呑む。
「千年の時を越えても尚、こうして俺の名は人間にその名を轟かせている。あいつもさぞ満足だろう」
「あいつって、誰ですか?」
鞍馬が不思議そうに尋ねと、天童は得意げに答えた。
「源頼光だ。俺がいなければあいつは偉人にはなれなかった。俺がいたからこそ、あいつはその名を残すことが出来ているんだ。つまりは俺のおかげというわけだ」
「なるほど。天童さん、すごいですね!」
いや、酒呑童子の名が今日まで伝わっているのはむしろその逆、源頼光のおかげなのであろう。
酒呑童子は人間に悪さ働いたあやかし。酒呑童子は酒に酔ったところを源頼光によって討伐された書かれている。
芽依はそう思いながらも口にはせず、その太刀の魅力にとりつかれていた。
「こんなにすごいんだ……。刀剣って」
「国宝だなんて。天童さん、すごいですね」
「そうだろう。さすが天はよくわかってくれるな」
天童はガラスケースすれすれに顔を近づけ、腕組みをしたまま刀を凝視している。
「実に美しく、力強さに溢れる一振り。今日はやけに輝いて見える。俺の来訪に喜んでいるようだぜ」
おそらく、天童は己の首を取られたとされるこの太刀何度も見に来ているのだろう。
芽依はその奇妙な縁を天童と太刀の間に感じていた。
「阿倍野芽依。もっとよく見ておけよ。お前はこれから田野前の助手になるんだ。この刀を知らずして、美術は語れねえぞ」
「は、はい……」
(でも、田野前さんの美術館は西洋美術がメインだって言ってた気がするけどな……)
それにしても、昔の日本人はこれで人を斬り合っていたのか。それが素直な感想だった。
だが何事も勉強だ。無職となり、しかも経験のない芽依をスカウトしてくれた田野前には感謝すべきだ。
そして今日、ここへ連れ出してくれた天童にも。
いまや芽依はあやかしなしでは生きていけない生活になりつつあった。
(しっかり勉強して、期待に答えなければ!)
「よし、次だ。ついてこい」
「えっ。まだあるんですか?」
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