28 / 55
王家の進退 ※王子主軸
しおりを挟む
「幸い、向こうの国はよくしてくれた。内心迷惑だったかもしれんが、飛行艇を用意してすぐに帰国できるよう手配してくれたよ。おかげでレリジェンの亡骸が痛む前に、お前に見せてやれた」
ぼそぼそと話し続ける父に、ユースレスは思わず駆け寄った。
「父上!わ、私は、ただ……!」
「よい、なにも言うな。儂がいけなかった。聖女を得たと舞い上がり、信仰を忘れた。信仰心を持ったままであれば、聖女を酷使したり、名声に嫉妬したり、政治に利用したりしなかった。自国に与えられた類まれなる恩恵を、自分への褒美だと勘違いした」
王は目を閉じた。目蓋に皺が寄るくらい、強く目を閉じていた。
「……今から出来ることをやる。残った者たちと話し合い、この先をなんとかせねばならん。お前も一緒に来い」
「私もですか?」
「全ての災いを乗り越えたあと、この国は大変な傷を負っているだろう。その責任をとらねばならん。儂は退位。お前の進退は……これからの働きにかかっている」
退位。そんな。と、ユースレスはよろめいた。
父の声には、言葉ほどの覇気はない。むしろ、結末の分かっている諦観がある。
こんな大事になるなんて、全く想像していなかった。
ユースレスはただ婚約者をディアから、イルミテラに変えたかっただけ。ついでにディアのことも、聖女兼愛妾としてそばに置いておきたかっただけだ。
婚約破棄を宣言したパーティーだって、リュゼ公爵の身内を集めた非公式のもので、処刑の舞台は急遽組み立てたハリボテ。
民衆は本物の処刑が見れると思っていたのかもしれないが、そもそも処刑にはいろんな手順が必要だ。裁判もしていない。
そうだよ!ちょっと考えたらおかしいって分かるだろ!大臣たちだって、祭主だって、止めはしなかったじゃないか!私だけが悪いわけじゃない!それを母上が知っていれば自死なんてせずに済んだ!そもそも、処刑はイルミテラが言い出したことで――
「それで、リュゼ公爵家の娘はどうした?」
ユースレスは、ハッと顔を上げ、苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた。
「……取り乱していたので、一旦家に帰らせました」
「そうか」と、王は項垂れた。
「戻ってきてくれるとよいがな」
「え?それはどういう……」
父は首を振った。
「さあ、行くぞ。やることは山積みだ」
ぼそぼそと話し続ける父に、ユースレスは思わず駆け寄った。
「父上!わ、私は、ただ……!」
「よい、なにも言うな。儂がいけなかった。聖女を得たと舞い上がり、信仰を忘れた。信仰心を持ったままであれば、聖女を酷使したり、名声に嫉妬したり、政治に利用したりしなかった。自国に与えられた類まれなる恩恵を、自分への褒美だと勘違いした」
王は目を閉じた。目蓋に皺が寄るくらい、強く目を閉じていた。
「……今から出来ることをやる。残った者たちと話し合い、この先をなんとかせねばならん。お前も一緒に来い」
「私もですか?」
「全ての災いを乗り越えたあと、この国は大変な傷を負っているだろう。その責任をとらねばならん。儂は退位。お前の進退は……これからの働きにかかっている」
退位。そんな。と、ユースレスはよろめいた。
父の声には、言葉ほどの覇気はない。むしろ、結末の分かっている諦観がある。
こんな大事になるなんて、全く想像していなかった。
ユースレスはただ婚約者をディアから、イルミテラに変えたかっただけ。ついでにディアのことも、聖女兼愛妾としてそばに置いておきたかっただけだ。
婚約破棄を宣言したパーティーだって、リュゼ公爵の身内を集めた非公式のもので、処刑の舞台は急遽組み立てたハリボテ。
民衆は本物の処刑が見れると思っていたのかもしれないが、そもそも処刑にはいろんな手順が必要だ。裁判もしていない。
そうだよ!ちょっと考えたらおかしいって分かるだろ!大臣たちだって、祭主だって、止めはしなかったじゃないか!私だけが悪いわけじゃない!それを母上が知っていれば自死なんてせずに済んだ!そもそも、処刑はイルミテラが言い出したことで――
「それで、リュゼ公爵家の娘はどうした?」
ユースレスは、ハッと顔を上げ、苦虫を噛み潰したような顔で吐き捨てた。
「……取り乱していたので、一旦家に帰らせました」
「そうか」と、王は項垂れた。
「戻ってきてくれるとよいがな」
「え?それはどういう……」
父は首を振った。
「さあ、行くぞ。やることは山積みだ」
589
お気に入りに追加
1,065
あなたにおすすめの小説
余命わずかな私は家族にとって邪魔なので死を選びますが、どうか気にしないでくださいね?
日々埋没。
恋愛
昔から病弱だった侯爵令嬢のカミラは、そのせいで婚約者からは婚約破棄をされ、世継ぎどころか貴族の長女として何の義務も果たせない自分は役立たずだと思い悩んでいた。
しかし寝たきり生活を送るカミラが出来ることといえば、家の恥である彼女を疎んでいるであろう家族のために自らの死を願うことだった。
そんなある日願いが通じたのか、突然の熱病で静かに息を引き取ったカミラ。
彼女の意識が途切れる最後の瞬間、これで残された家族は皆喜んでくれるだろう……と思いきや、ある男性のおかげでカミラに新たな人生が始まり――!?
家族と婚約者に冷遇された令嬢は……でした
桜月雪兎
ファンタジー
アバント伯爵家の次女エリアンティーヌは伯爵の亡き第一夫人マリリンの一人娘。
彼女は第二夫人や義姉から嫌われており、父親からも疎まれており、実母についていた侍女や従者に義弟のフォルクス以外には冷たくされ、冷遇されている。
そんな中で婚約者である第一王子のバラモースに婚約破棄をされ、後釜に義姉が入ることになり、冤罪をかけられそうになる。
そこでエリアンティーヌの素性や両国の盟約の事が表に出たがエリアンティーヌは自身を蔑ろにしてきたフォルクス以外のアバント伯爵家に何の感情もなく、実母の実家に向かうことを決意する。
すると、予想外な事態に発展していった。
*作者都合のご都合主義な所がありますが、暖かく見ていただければと思います。
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。
これでも全属性持ちのチートですが、兄弟からお前など不要だと言われたので冒険者になります。
りまり
恋愛
私の名前はエルムと言います。
伯爵家の長女なのですが……家はかなり落ちぶれています。
それを私が持ち直すのに頑張り、贅沢できるまでになったのに私はいらないから出て行けと言われたので出ていきます。
でも知りませんよ。
私がいるからこの贅沢ができるんですからね!!!!!!
婚約破棄を告げた瞬間に主神を祀る大聖堂が倒壊しました〜神様はお怒りのようです〜
和歌
ファンタジー
「アリシア・フィルハーリス、君の犯した罪はあまりに醜い。今日この場をもって私レオン・ウル・ゴルドとアリシア・フィルハーリスの婚約破棄を宣言する──」
王宮の夜会で王太子が声高に告げた直後に、凄まじい地響きと揺れが広間を襲った。
※恋愛要素が薄すぎる気がするので、恋愛→ファンタジーにカテゴリを変更しました(11/27)
※感想コメントありがとうございます。ネタバレせずに返信するのが難しい為、返信しておりませんが、色々予想しながら読んでいただけるのを励みにしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる