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眠る王妃 ※王子主軸
しおりを挟む棺に安置された王妃は、眠っているようにしか見えなかった。
ひやりと冷たい水晶石と、たくさんの白い花に包まれて、かすかに微笑んでいるようだ。
ユースレスは棺に取りすがって泣きじゃくり、なにがあったのかを同行者に聞き回った。しかし誰もが目を逸らし、「王陛下にご確認ください」とよそよそしく言うばかり。
「父上……!」
父王はひとり、執務室にいた。
国旗をショールのように肩からかけて、家族の肖像画を眺めている。
大抵の絵は額縁ごと盗まれていたが、肖像画だけは無事だった。誰も持っていきたくなかったのかもしれない。
「一体なにがあったんですか!?どうして母上が……!」
「――いい絵だ」
父は絵を眺めたまま、しみじみと言った。
絵の中では、若い頃の父王と母、生まれて間もないユースレスが澄ました顔で微笑んでいる。明るい色調が、そのときの幸福感そのものだ。
「ち、父上?」
数日ぶりに見た父の横顔は、驚くほど老け込んでいた。
自信家で活力にあふれていた父王。
協商関係にある国々を歴訪すると、楽しげに出て行ったのは、ほんの少し前のこと。「聖女持ちの国王を、後進国の連中がどう歓待してくれるか見物だ!」と笑っていたのが嘘のような、くたびれはてた姿だ。
父はぼんやりとした口調で、王妃の最後を語った。
「レリジェンは……母はな、喉を突いて死んでおったよ。銀のペーパーナイフで一突きだ。隣国の礼拝堂で息絶えていた。お前のために――滅びゆく国のために、身代わりになろうとしたんだろう。『私の信仰を捧げて、女神様に戻ってきて頂く』。付き添いの侍女にそう言ってひとりで礼拝堂に入っていったそうだ」
父の言葉が、一瞬理解できなかった。
『身代わりになろうとしたんだろう』
全身の血が一気に足元まで下り、冷や汗と震えが止まらなくなった。
――自分のせいで母は死んだのだ。
ひやりと冷たい水晶石と、たくさんの白い花に包まれて、かすかに微笑んでいるようだ。
ユースレスは棺に取りすがって泣きじゃくり、なにがあったのかを同行者に聞き回った。しかし誰もが目を逸らし、「王陛下にご確認ください」とよそよそしく言うばかり。
「父上……!」
父王はひとり、執務室にいた。
国旗をショールのように肩からかけて、家族の肖像画を眺めている。
大抵の絵は額縁ごと盗まれていたが、肖像画だけは無事だった。誰も持っていきたくなかったのかもしれない。
「一体なにがあったんですか!?どうして母上が……!」
「――いい絵だ」
父は絵を眺めたまま、しみじみと言った。
絵の中では、若い頃の父王と母、生まれて間もないユースレスが澄ました顔で微笑んでいる。明るい色調が、そのときの幸福感そのものだ。
「ち、父上?」
数日ぶりに見た父の横顔は、驚くほど老け込んでいた。
自信家で活力にあふれていた父王。
協商関係にある国々を歴訪すると、楽しげに出て行ったのは、ほんの少し前のこと。「聖女持ちの国王を、後進国の連中がどう歓待してくれるか見物だ!」と笑っていたのが嘘のような、くたびれはてた姿だ。
父はぼんやりとした口調で、王妃の最後を語った。
「レリジェンは……母はな、喉を突いて死んでおったよ。銀のペーパーナイフで一突きだ。隣国の礼拝堂で息絶えていた。お前のために――滅びゆく国のために、身代わりになろうとしたんだろう。『私の信仰を捧げて、女神様に戻ってきて頂く』。付き添いの侍女にそう言ってひとりで礼拝堂に入っていったそうだ」
父の言葉が、一瞬理解できなかった。
『身代わりになろうとしたんだろう』
全身の血が一気に足元まで下り、冷や汗と震えが止まらなくなった。
――自分のせいで母は死んだのだ。
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