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最後の祝福
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女神は一気に中空まで飛んだ。輝く翼が、天蓋のように広がった。
「愛する人の子たち!これから苦難の道が待っていることでしょう!多分主神に怒られるから、わたしはもう助けてあげられないけど……みんなのことを天から見守ってるわ!これが最後の祝福よ!」
女神の声とともに、空気が煌めき、金粉が舞い散る。とろけるような甘い花の香りが広場を満たした。
「わたし自慢の祝福なの!これで、明日はちょっとだけハッピーなことがあるわ!失くし物を見つけるとか、お花が綺麗に咲くとか、好きな人と一緒に出掛けるチャンスが出来るとか!」
女神はユースレスとイルミテラの方をチラッと見て、親指をグッと上げてみせた。そして、他の観衆を見渡せば、みんな目や口を大きく開いて涙を流している。
言葉にはなっていないけど、きっと最後のお礼を言ってくれているのだ、と女神は嬉しくなった。死の運命を前にして、恐慌状態に陥ってるとは全然分かっていなかった。
「そんなに喜んでもらえて嬉しいわ!わたしもみんなのこと大好きよ!ちょっと誤解があったかもしれないけど気にしないで!これからも信仰よろしくね!みんなで力を合わせて、運命に立ち向かうのよ!」
お別れを言っていると、女神はだんだん気分が盛り上がってきて涙をこぼした。感激屋なのだ。
「さようなら、王国!さようなら、愛しい人の子たちッ!!」
鼻水をすすりながら女神は、ふわふわと黄金の空高くに上っていく。
それに伴い、まるで幕が引き上げられるように、国中を覆っていた結界が、永遠に続くと思われていた繁栄と豊穣が、人々の心を満たしていた幸福感が、ゆっくりと消え去っていく。
「みんなー!ありがとうー!!」
そうして、天の門は永遠に閉じられた。
「いやああああ……ッ!!お願いだから行かないでえええええ!!」「帰ってきてください!帰ってきて!」「助けてくれ!俺たちはどうなるんだ!あの映像みたいに死んじまうのか!?」「早くこの国から逃げなくちゃ!できるだけ遠くへ!」「どうして?どうしてこんなことに……!?」
女神が消え、人々に声が戻った。
その途端、広場を埋め尽くす悲鳴、懇願、怒号。
騒然とする広場を、ユースレスはうつろな目で見つめている。
イルミテラは髪を掻き毟りながら床にうずくまった。ガチガチと鳴る歯の隙間から、細い声が漏れる。
「……ほ、本番は、こ、こ、これから……ッ!」
災いが訪れる。
なのに、もう守ってくれる女神はどこにもいない。
「愛する人の子たち!これから苦難の道が待っていることでしょう!多分主神に怒られるから、わたしはもう助けてあげられないけど……みんなのことを天から見守ってるわ!これが最後の祝福よ!」
女神の声とともに、空気が煌めき、金粉が舞い散る。とろけるような甘い花の香りが広場を満たした。
「わたし自慢の祝福なの!これで、明日はちょっとだけハッピーなことがあるわ!失くし物を見つけるとか、お花が綺麗に咲くとか、好きな人と一緒に出掛けるチャンスが出来るとか!」
女神はユースレスとイルミテラの方をチラッと見て、親指をグッと上げてみせた。そして、他の観衆を見渡せば、みんな目や口を大きく開いて涙を流している。
言葉にはなっていないけど、きっと最後のお礼を言ってくれているのだ、と女神は嬉しくなった。死の運命を前にして、恐慌状態に陥ってるとは全然分かっていなかった。
「そんなに喜んでもらえて嬉しいわ!わたしもみんなのこと大好きよ!ちょっと誤解があったかもしれないけど気にしないで!これからも信仰よろしくね!みんなで力を合わせて、運命に立ち向かうのよ!」
お別れを言っていると、女神はだんだん気分が盛り上がってきて涙をこぼした。感激屋なのだ。
「さようなら、王国!さようなら、愛しい人の子たちッ!!」
鼻水をすすりながら女神は、ふわふわと黄金の空高くに上っていく。
それに伴い、まるで幕が引き上げられるように、国中を覆っていた結界が、永遠に続くと思われていた繁栄と豊穣が、人々の心を満たしていた幸福感が、ゆっくりと消え去っていく。
「みんなー!ありがとうー!!」
そうして、天の門は永遠に閉じられた。
「いやああああ……ッ!!お願いだから行かないでえええええ!!」「帰ってきてください!帰ってきて!」「助けてくれ!俺たちはどうなるんだ!あの映像みたいに死んじまうのか!?」「早くこの国から逃げなくちゃ!できるだけ遠くへ!」「どうして?どうしてこんなことに……!?」
女神が消え、人々に声が戻った。
その途端、広場を埋め尽くす悲鳴、懇願、怒号。
騒然とする広場を、ユースレスはうつろな目で見つめている。
イルミテラは髪を掻き毟りながら床にうずくまった。ガチガチと鳴る歯の隙間から、細い声が漏れる。
「……ほ、本番は、こ、こ、これから……ッ!」
災いが訪れる。
なのに、もう守ってくれる女神はどこにもいない。
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