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番外編1 〜ライナスAfter story〜
2. 知らない事実
しおりを挟む一般騎士に降格した為、勤務は交代制で時間になったら帰れる。領地運営をする身ではありがたかった。
多分副団長をやっていた頃だったら騎士を辞めなくてはならなかっただろう。
今は平日は王都、週末は領地に顔出して引き継ぎ内容の確認をしている。
領民達とは子供の頃以来会ってない為、信頼関係はまだ築けていないが、母が俺の話をよくしていたらしく、最初から歓迎してもらえたのは有り難かった。
こんな所で母の気遣いに気づき、また情けない気持ちになった。俺は騎士のくせに守られてばかりだ。
きっと、いつでも領地の仕事につけるように母が手回しをしてくれていたのだろう。騎士になりたいという俺の我儘を許し、女1人で領地運営をしていた母に俺は感謝の気持ちを心から伝えた事があっただろうか?
当主のクセに、母がやる事に何の疑問も持っていなかった。その苦労を知ろうともしていなかった。
今自分がその仕事をやってみて、どれほど大変だったかを今更思い知る。正直騎士との両立もしんどいと思うくらい仕事が山積みだ。
でも、今の俺にはちょうどいい。
アシュリーは居ないし出世の道が閉ざされた今、最早何の為に騎士を続けているのかわからなくなるが、忙しい方が気が紛れていい。
でないと俺は今にもアシュリーを求めて探しに行ってしまいそうだから───、
今アシュリーは何処にいるんだろう?
時折無性に会いたい衝動に駆られる。
アシュリーが実家を出る予定でいる事は母との別れの日に聞いた。探しに行きたくて居ても立ってもいられなくなる時は、剣を振るって何とか気持ちを落ちつかせた。
俺にはもうアシュリーに会う資格なんてない。
何より、鳥肌が立つほど拒絶されているのだから。
その事実にまた絶望して、この頃の俺はかなり不安定だった。
そんなある日の週末、団長が邸を訪ねてきた。
「久しぶりだな、ライナス」
「お久しぶりです」
「敬語なんてよせ。むず痒い。俺達は同期だろ。それに、近いうちに俺は団長じゃなくなる」
「は?」
話を聞くと、ここ最近の断罪劇により団長の管理能力が問われ、彼も近々査問にかけられるらしい。
「身から出た錆びだな。俺は元々管理職には向いてないからいい機会だ。妻子を連れて領地に引っ込むよ。それなら上層部も反対しないだろうしな」
「管理職辞めたいって良く愚痴ってたのは本気だったのか・・・」
「何だと思ってたんだよ」
「団長になれない俺への当てつけかと思ってた」
「お前捻くれてんなぁ。俺はそんな腹黒じゃねえよ。そんな図太い精神持ってんなら管理職で胃痛起こしてねーわ。団長なんてな、騎士道どっかに捨てた狸ジジイどもの相手しなきゃなんねえわ、下の者から不平不満を言われるわでやりがいもクソもねーよ。純粋に強さを求めて現場で仕事してた時が一番やりがいがあった」
そういやよく胃薬飲んでたっけな。と思いを馳せてると、団長が驚く事を口にした。
「ところでお前の元奧さん、今は辺境で働いてんだな。偶然見かけてびっくりしたぜ。高位貴族の令嬢で、元侯爵夫人が働いてるってだけでも驚きなのに、看護師の資格まで持ってたとは。学園時代に才女と言われただけあるな」
「───────は?」
辺境?
アシュリーが?
「何だそれ、どういう事だ!?」
「は?お前知らなかったの?」
「知らない・・・」
「今回降格した奴らの中に第三騎士団や辺境騎士団の下っ端に飛ばされた奴もいたんだよ。そいつらの引き渡しに行った時に見かけたんだ。辺境騎士団の屯所で看護師として働いてるらしいぞ。挨拶しようとしたけど辺境伯夫人に止められた。お前との事を知ってるみたいで、思い出させるから会うなと言われたよ」
「・・・アシュリーが、看護師・・・?」
「─────なんだその反応。まさか資格持ってた事すら知らなかったとか言わないだろうな」
「・・・・・・・・・・・・」
「──はあ、マジか。何やってんだお前。そんなんだから離縁されるんだよ。どんだけ妻に興味ないんだよ」
「そんな事ない!俺はアシュリーを今でも愛してる!」
「全然信じられんわ。つーかまだそんな馬鹿な事言ってんのか。しくじったな。居場所すら話さない夫婦関係になっていたとは・・・。お前、辺境伯家に相当嫌われてるから命が惜しければ近寄るなよ。俺の最後の忠告だ」
「ちょっと待ってくれ、何で辺境伯がアシュリー囲ってんだ?」
「────辺境伯夫人は前バーンズ公爵の妹だ」
「・・・っ、バーンズ女公爵が手を回したのか。もしかして離縁前にアシュリーが3ヶ月くらい身を寄せてたのも辺境か?」
「──────多分そうだろうな」
「はっ、居場所わかってて俺に黙ってたのか!」
「─────そうだ。事件性もなかったし、奧さん本人がしばらくお前に会いたくないと望んでたからな。それに、今更だろ?もう離縁して縁切れてんだから」
「──────────もういい・・・。帰ってくれ」
俺はもう話を続ける気にならず、項垂れた。
離縁してから、俺の知らないアシュリーや母の事がどんどん出てくる。そして己の至らなさに打ちのめされるんだ。
本当に、俺は何やってたんだ。
地位も名誉も良妻も、性欲解消の女も全部手に入れたと浮かれていい気になってただけの自分が恥ずかしくて、情けなくて仕方ない。
その生活は、アシュリーを傷つけて、母に苦労させて得た張りぼての生活だったのに、自分の実力で全てを手に入れた気になっていた。
「・・・・・・じゃあ、元気でな」
項垂れている俺を見て、団長はかける言葉が思い付かなかったのか、気まずそうな顔をして部屋を出て行った。
「くそ!」
やりきれない気持ちを抑えきれなくてカップを床に投げつけたら割れた。その音を聞いて家令がメイドを呼び、片付けさせる。
「・・・・・・・・・お前は知っていたのか?アシュリーが辺境で看護師をしていることを」
目の前に立つ家令に問いかけた。
「いいえ。知りませんでした。でもアシュリー様が看護師の資格を取得した事は知っております」
「何で俺に報告しない?」
「しましたよ」
「────え?」
「私は報告しましたよ。更に言うなら、アシュリー様も旦那様に報告していましたよ。まあ、聞き流していたようですけど」
「・・・・・・・・・・・・」
俺は何も言えなかった。
本当に聞いた記憶がない。
アシュリーが離縁を言い出すまではずっと向き合う事から逃げていたから、そんな事はないと言い切れなかった。
「逆に、何故アシュリー様があんな熱心に学んで資格を取得したのに忘れるのですか?全て旦那様の役に立とうと思っての事でしたのに」
「俺の役に?」
「騎士である旦那様がケガをしても治療や看病ができるようにと資格を取られたのです。邸の仕事は貴方の命令でアシュリー様にさせられなかったので、彼女は時間を持て余しておりました。私にも何度も仕事をくれと願い出ていましたが、私は貴方の命令を違えるわけにはいかないのでお断りしました。だからアシュリー様はご自分で貴方の役に立てる方法を考えて、看護師の資格を取ろうとなさったのでしょう。それより聞いて良いですか。何故アシュリー様に女主人の仕事をさせなかったのです?」
「それは・・・アシュリーに苦労させたくなかったから・・・・・・」
正直何でそうなったのか、詳細は覚えていなかった──。
ただ、しばらくは夫婦の時間を楽しんで結婚2年目から子作りしようと決めて、産後は大変だから育児に専念すれば良いとなったはず────。
でも子供がいない間はそんな話無効になってても良かったはずだ。でもそのままにしたまま俺は仕事に逃げて、忘れた。
「私とアシュリー様は何度も進言しましたよ。旦那様はいつも仕事が忙しいから後にしろと取り合わず、そのうち寝るだけの為にしか邸に帰らなくなりましたけどね」
家令の冷めた視線に耐えきれず、俯いた。何となく、アシュリーに仕事をさせろと家令に言われていた事を思い出す。
「───アシュリーは、仕事がしたかったのか・・・?」
「────旦那様は、アシュリー様の事を何も知らないのですね」
家令の憐れむような視線に苛立ったが、何故か反論出来なかった。
幼馴染でずっと恋人だったのに、
誰よりも長く一緒にいたのに、
思い出すのは結婚前のアシュリーばかりだった。
結婚してこの邸に住み出してからのアシュリーを俺は知っていると言えるのだろうか。
思い出そうとすると、朝仕事に行く時間にいつも笑顔で俺を見送ってくれるアシュリーしか思い出せない。
仕事をしたがっていたのも、俺の為に看護師の資格を取っていた事も知らなかった。
いや、実際には聞いていたらしいが、覚えていない。
『お前どんだけ妻に興味ないんだよ』
違うと否定したいのに、
思い出せない。
都合の悪い事から逃げ回ってた俺は、結婚してからのアシュリーの事を何も知らなかった─────。
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