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犬と猿

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「呪い」と一括りに呼んではいるものの、その種類は多岐にわたる。日本にも古来より様々な「呪い」と呼ばれる現象が存在し、今も尚語り継がれている。

神職のような特別な力を持つものは、自分のその力によって呪いを生じさせる。その方がより強い呪いを生み出すことができるからだ。しかしそのような力がない人にも呪いを発生させることは意外と簡単に出来たりする。

呪いの本質は負の感情、負の感情さえあれば呪いは何処にでも生まれる。

過去の事例を紐解くと、その呪いの多くは「物」を媒介にして生み出されてきた。

亥の刻参りの藁人形何かがそのいい例だ。藁人形を呪いたい相手に見立てて五寸釘を打ち込むことで呪いが完成する。他にも蝋燭や瓶、紙に紐など、私たちの生活に根付くものほど強い呪いを引き起こす媒介になったりするらしい。

何かを介すことで威力は弱まってしまうのだけれど、負の感情を物に集めることで力のない人間でも呪いを操ることができるようになる────らしい。

らしい、というのも、呪いについて専門的に学ぶのは2年生からなのでフワッとした知識しかないのだ。

二学期から「呪法基礎学」の授業が始まったけれど、まだ呪いとは何たるかをざっくりと習った程度の知識しかない。


「なぁなぁ。思ったんだけどさ、呪法の授業は来年からじゃん? 今回の調査で呪の原因が分かったとしても、俺ら最後までやらして貰えないんじゃね?」


時刻は正午を少し過ぎた頃。西院高校の最寄りの停留所へ着いた私達は学校へ向かう道を並んで歩いていた。


「まぁそうだろうね。俺たちの最終報告を聞いた上で、禰宜が判断するんじゃない? 多分良くても後ろで見学じゃない?」

「も~、何だよつまんねぇーの」


慶賀くんが唇をとがらせて頭の後ろで手を組んだ。


「僕らが"前科持ち"の事、どうやら禰宜にバレてるみたいだよ。出る時に『決して"俺らだけでもいけるんじゃね?"なんて思わないように』って釘刺されたもん」


前科持ちって。

来光くんの言い方に少し笑ってしまったけれど、笑い事では無いのは重々承知だ。

一度目は夏休み、妖だと思って執り行った神事で神様を怒らせてしまい、禄輪さんから強烈なビンタをもらった。二度目は二学期、先生たちに報告せず学校内に住み着いた怪虫の駆除をしてこれまた怒られた。

ちなみに二度目も、後日禄輪さんからかなり強めの手刀をもらった。次に勝手な事をしたらどうなるか分かっているな、と私たちに言い聞かせた時の禄輪さんの顔はきっと鬼の子でも逃げ出すに違いない。

とにかく私達にはリーチがかかっているので、これ以上勝手な事は出来ない。


「そもそも実習が終わるまでに原因を追求できなかったら何の意味もないんだから、さっさと調べて解決しよう」


だなー、と皆が返事をする。

やがて西院高校が見えてきた。ちょうど昼休みを知らせるチャイムが鳴って、私達は目を合わせる。


「行こう」


嘉正くんの言葉に皆は大きく頷くと、並んで校門をくぐった。



「うっひょ~、何これ超うめ~!!」

「一口も~らいっと!」

「あっ、おいこら泰紀! お前のひと口デカいんだよッ!」


がやがやと賑わう食堂の末席、ハンバーグを奪い合う二人に嘉正くんは頭を抱えた。


「いいから早く食べなよ。時間無くなっちゃうだろ」


息を吐いた嘉正くん。


「わーてるよ! でもこれだって立派な調査だぞ!」

「そうだそうだ。食堂のメニューに不満があるやつが、呪いを生み出したのかもしれねぇからな~」

「んなわけあるかッ!」


来光くんの鋭いツッコミが入る。

くすくす笑いながら、私も自分のわかめうどんに箸を伸ばした。

何故私達が学食でしかもお昼ご飯を食べているのかと言うと理由は簡単だ。

校舎へ入ってすぐ、カレーやお出汁のいい匂いに気付いた慶賀くんが「あっちが怪しい!」と満面の笑みで引っ張ってこられて今に至る。

もちろん恵衣くんは「ふざけるな!」と眉を釣りあげて一人別行動をしている。

まなびの社のお昼ご飯は13時から手の空いた時に各自でとる事になっている。社を出発したのは12時前だったので、まだお昼ご飯を食べれていなかった。

確かに私もお腹は空いていたけれど、流石にこれは気が抜けすぎなのでは……。

そう思いつつちゅるりとうどんをすする。関西なだけあってお出汁が透明だ。透明なのに凄くしっかり味がついている。美味し、と心の中で呟き「駄目駄目、今は仕事中なんだから」と自分に喝をいれた。

ほんとにお前らは、と呆れつつもしっかりカツカレーを頬張っている嘉正くんに笑いながら辺りを見回した。

綺麗な学生食堂だ。何度か皆でみた学校のパンフレットには二年前に改装工事をしたと書いていた。二百席くらいはありそうで、揉めることなく皆が席に座って昼食を楽しんでいる。

窓から太陽の光が差し込み室内全体によく光が行き届いている。清掃も毎日こまめにされているのがよく分かる。

そして何より居心地が良い。着工する前の地鎮祭で土地を清めた効果がまだ続いているんだろう。


「ここは関係なさそうだね」


来光くんも同じことを考えていたらしい。


「だね。────あれ、来光くんは和食なんだ」


トレーの上に乗った焼き鯖定食に首を傾げる。

来光くんは苦笑いを浮かべて首をすくめた。


「千江さんの料理すごく美味しいんだけど、七分の五も洋食だとね」


そんな言葉に思わず吹き出す。


「巫寿ちゃんもでしょ?」


私のわかめうどんを指してにやりと笑う来光くんに、今度は私が首をすくめた。

食った食った、と伸びをしながら食堂の外へ出る頃には昼休みは残り30分を切っていた。


「時間が無いな。急いで見て回ろう」


「そうだね」とひとつ頷いた。

前回の聞きこみ調査で、私たちはこの一連の事件は学校内のみで起きていると検討をつけた。つまり犯人は、学校関係者か教員、在校生だ。

さらに禰宜のアドバイスによりその関係者全員の名簿と生年月日を取り寄せ、神社本庁へ送った。本庁に届け出のある人物名と照らし合わせて、力の有無を調べえもらうことが出来るらしい。

さらに神職ではない能力者────陰陽師や祓魔師の家系であるかどうかも調べれるデータベースまでもが存在するらしく、今回はそれにも照らし合わせてもらった。

次の日には「登録者該当ナシ」の結果が帰ってきて、関係者全員が言霊の力を保有していないことがわかった。

そんな事も出来るんだ、と感心しつつあの量の照会をたった一日で終わらせた本庁の人達もすごい。

とにかく、該当者がいなかったことから今回は普通の人が犯人である可能性が高くなった。力の持たない人が犯人、つまり誰でも発生させることが出来る呪い。"物"を媒介にした呪いだ。


「なぁなぁ。物を媒介にした呪いって所までは分かんだけどさ、それなら夜に忍び込んでチャチャッと媒介を壊せば一件落着じゃね?」


お腹が満たされると今度は眠気が来たらしく、ふわぁと欠伸を零しながら慶賀くんが聞いた。


「慶賀……先週の話し合い聞いてなかったのか? 媒介は目に見えるような大きい物じゃないかもしれないから、明るいうちに場所の検討をつけたいねって話しただろ」

「そんな話したっけ?」

「お前の記憶ではされてない事はよく分かった」


えへ、と両頬に頬を当てて体をくねらせた慶賀くんの頭に容赦ない手刀が落ちる。


「薫先生に任務に連れてかれた時、よく言ってたでしょ。人が多い場所は産土神の力が強いから、良くないものは人気ひとけのない場所に集まるって」


おそらく中学時代に「経験を積ませるため」と称してあちこち任務に連れ回された時の話をしているのだろう。

そういや何か言ってたな!と指を鳴らす。

中等部の頃のその経験が私にはちょっと羨ましい。私が連れていかれたのは入学式の日の一度きりだ。

もう連れ回すのは辞めてしまったんだろうか。

いや、そういえば一学期の半分は入院して、二学期の後半は学校閉鎖になっていたからそもそも機会がなかったんだろう。


「モノ自体に意思はないけど、術者を快適な環境……人気のない不浄な場所へ導こうとする力が働くんだってさ」


来光くんが小さな手帳を覗き込みながらそう言う。

呪いについてまだ詳しく習っていない自分たちにしては、かなり絞り込めた方なんじゃないだろうか。


「じゃあ生徒がいない所を今のうちに見つけておけばいいってこったな!」

「そういう事。出来れば明るいうちに媒介の捜索も始めたかったけど、時間が無いから場所だけ検討をつけよう」

「だね。じゃあ日が暮れた後にまた調査できるように、禰宜に頼んでおかなきゃだ」


さくさくと進めていくみんな。この神社実習の間にどんどん頼もしくなっている気がする。それに比べて私は、とまた呪が高まりそうになり慌てて首を振る。

私だって少しは成長してるんだ。前よりもできることが増えた事に胸を張ろう。

校舎の一階をみんなで歩きながらきょろきょろと当たりを見渡す。


「にしても人多いな~。どこ見ても同い年くらいの奴らがうじゃうじゃいるんだけど!」


廊下を楽しそうに歩いていく男子生徒の集団に、みんなは目を丸くした。

普通の学校に通ったことのある私と来光くんは顔を見合せて笑う。


「普通はこんなもんだよ。一クラス35人でそれが四クラス。三学年で合わせてだいたい400人超えるくらい」

「おいおい、それ教室狭くねぇの?」

「満員電車じゃん!」


確かに思えばあんな小さな教室に35人も人が入っていたと思うとちょっとびっくりだ。

神修は一クラス5人から10人程度だ。広い教室に慣れてしまったので、私も今この環境に戻ったら狭く感じてしまうかもしれない。


「神修ってどの学年もほぼ一クラスで、生徒数も少ないよね。やっぱり言霊の力を持ってる人が少ないから?」


私の問いかけに、みんなは少し気まずそうな顔をした。

首を傾げる。


「まぁ……それもだけど」


来光くんが曖昧に答えた。

それも? 他に理由があるみたいな言い方だ。

嘉正くんが少し言いにくそうに口を開く。


「俺らの親の代が、空亡戦で最前線に送られた年代の人達だから」

「あ……」


そうか、そういう事だったんだ。

思えば初等部はどの学年も当たり前のように二、三クラスある。生徒数が少ないのは中等部と高等部。空亡戦が激化した頃に両親が二、三十代だった学年だ。

禄輪さんのアルバムを思い出す。写真に写る「かむくらの神職」は50人以上いた。そのほとんどが今は亡き人達。お父さん達と同じくらいの歳の人達だった。もっと若い人もいた。

改めて、空亡戦がどれほど多くの犠牲を払って集結したのかを思い知る。傷は今もなお癒えることなく深く残っている。

私たちは、そんな中今神修で学んでいる。きっと毎日の学びには、自分が思っている以上の意味があるはずだ。


「……帰ったらさ、呪いについて自主勉会開く?」


普段なら絶対にそんな提案はしない慶賀くんの申し出に、からかう人はいなかった。


「さくっと終わらせて、ちたァ真面目に勉強するか!」

「おう!」


拳をぶつけあった二人に小さく笑う。遅れて私達も「おー」と拳を掲げた。

そうと決まれば、と駆け出した慶賀くん。お前らも早く来いよー、と振り返る。


「慶賀くん、前見てないと────」


危ないよ、と言い切る前に階段に差し掛かり、降りてきた誰かと正面からぶつかる。その勢いで尻もちを着いた慶賀くんに皆は呆れた表情を浮べる。


「ごめん前見てなかった……ってお前!」


同じようにぶつかった衝撃で相手も尻もちをついたらしい。こちらからは壁で見えないけれど、慶賀くんは顔を知っていたらしくバッと指を指す。


「お前ノブくんじゃん!」


思わずえっ、と声を上げる。パッと振り返ると来光くんが目を見開いていた。

思わず身を乗り出す。


「ら、来光くん! 話したい事あるんじゃないの!」

「え……」

「だって、そうじゃなきゃ昔の友達のことずっと気にかけてたりしないよ」


来光くんは少し戸惑うように私を見つめる。そして視線を彷徨わせたあと、「うん」と力強く頷いた。

「あっ、なんだよ人の顔みて逃げるなよ!」と慶賀くんが声を上げる。どうやら逃げ出そうとしているらしい。

来光くんはぐっと拳を握りしめると走り出した。

私たちが駆けつけるとノブくんは階段の踊り場で取り押さえられていた。

「離せや!」とドタバタ暴れる背中に慶賀くんが飛び乗る。ぐぇッと苦しそうな声を上げて暴れるのを諦めるようにがっくり脱力する。

「諦めの悪いヤツめ」と鼻を鳴らして吐き捨てた慶賀くんの頭を「やり過ぎだ馬鹿」と嘉正くんが叩いた。

床の上に伸びるノブくんの前に膝を着いた来光くん。


「ノブくん……」


床に顔を伏せるノブくんの肩がびくりと震えた。


「立てる……?」


ゆっくりと顔を上げたノブくんはひどく顔を顰めると差し出された手を勢いよく跳ね除けた。パンッ、と乾いた音が廊下に響く。

走り出そうと勢いよく立ち上がったノブくんは自分の足に躓いて、ビタンッと痛そうな音を立ててまた廊下に倒れる。

階段を降りてくる学生たちが何事かとチラチラこちらを伺っている。


「ここじゃなんだし、場所移す?」


嘉正くんの提案に返事は無い。けれど黙って立ち上がると下足場に向かって歩き出した。

ノブくん先導のもと案内されたのは人気ひとけのない体育館裏だった。

これがかの有名な体育館裏の呼び出しかぁ、漫画で見たやつじゃん、なんて呑気に辺りを見回す慶賀くんと泰紀くんに私までも気が抜ける。

私が緊張することでは無いはずなのだけれど、来光くんの強ばった顔を見ているといつの間にか肩に力が入っていたらしい。

けれどみんなすぐに間に割って入れる距離で二人のことを気にしているのが分かる。私もいつでも割って入れるように、少し離れたところから見守った。


「……前、会った時はちゃんと話せなかったから。呼び止めてごめんね。久しぶり」


先に口を開いたのは来光くんだった。落ち着いた声だ。少しの緊張も感じる。

対してノブくんは俯いたまま固く口を閉ざしている。しばらく待っても返事がなく、来光くんがまた語りかける。


「ずだと会ってもう一度ちゃんと話したかった。あの日から、ずっとそう思ってた」


あの日、という言葉にのぶくんの肩が震える。

全てを語らずとも「あの日」がいつのことを指しているのか、二人の中ではちゃんと通じあっているようだった。

あの日────二人の友情に亀裂が走った日。


「あの日……ノブくんに殴られて凄くショックだった。裏切られたと思った」


"自分を売るか友達を売るか"

そんな非道な問いかけに対して、来光くんは友達を守ることを選んだ。でもノブくんはそうじゃなかった。

ノブくんのその選択が、どれほど来光くんを苦しめたのか想像もできない。


「でも、少し前の自分だったら……ノブくんと同じ選択をしていたかもしれない。だからあの時、ノブくんがどんな気持ちだったのか分かるんだ」


来光くんの声はどこまでも優しかった。

許せない事をされた。裏切られた。でも来光くんは、まだノブくんのことを友達だと思っている。信じている。

それは自分の弱さを知っているからこそ、できることなんだと思う。


「やっぱり心のどこかではまだ許せないけど、でも僕は────」

「……許す?」


ずっと固く口を閉ざしていたノブくんが呟くように繰り返した。

バッと顔を上げた。怒りに満ちた瞳だっだ。


「許すって何? お前が俺を許す? ふざけんなやっ!」


突然怒鳴り声を上げて駆け出したノブくん。

その手が来光くんを掴む前に、皆がその間に入った。慶賀くんと泰紀くんが険しい顔で肩を押えた。

伸ばした手は宙を掴む。

悔しそうにその手で自分の太ももを叩いた。歯を食いしばり、怒りの籠った血走った目で来光くんを睨む。


「俺はお前のせいでッ、俺がどれだけ、俺が……ッ!」


血走った目から大粒の涙がこぼれた。堪えるような嗚咽に皆が戸惑う。

離せや!とみんなの手を振りほどいたノブくん。乱暴に目尻を拭って背を向けた。


「許すとか許さんとか、お前が言える立場ちゃうやろ! 二度とに俺の前に現れるなッ!」

「何で……何でそんな事言えるんだよ! 先に裏切ったのはノブくんだろッ!」


その背中に来光くんが叫んだ。

ゆるりと振り返ったノブくんの目はぼんやりとしていて焦点が合わない。

何故か背筋がぞわりとした。


「お前やって俺の事、裏切った癖に」


来光くんが裏切った? 一体どういうこと? だって最初に裏切ったのは、あの日友達を売ったノブくんなんじゃ。


「お前はそそくさ逃げ出したけど、俺は今までずっとここにおったんや」


感情のない冷たい声だった。


「どういう……事?」


静かに尋ねた来光くん。

いいや、これは聞いたんじゃない。その瞬間、来光くんも私達も答えは何となく分かっていた。

分かっていた上で信じられなくて信じたくなくて、違っていて欲しいそうであってほしくない、そう否定したかったから聞いたんだ。


「お前のせいで俺は……あの日からずっと地獄や」


みんなが息を飲んだ音が聞こえた。

思い返せば初めて会った時から違和感があった。ヤンチャそうな男たちの後ろを数歩遅れて歩き、悪意のある呼称で呼ばれ、何かをこらえるように顔を顰めていたノブくん。

神修に来て信頼出来る友達と知り合えたからこそ分かる。

あんなのは友達じゃない。ちょっとしたふざけあいでもない。そこにあるのはただの醜い悪意の塊だ。


「俺はお前のこと、一生許さん」


そう吐き捨てると勢いよく駆け出す。

すかさず来光くんがその手首を捕まえた。


「待ってッ! 最後に一つだけ教えて……!」


ノブくんが掴まれた手を振りほどこうと勢いよく身をよじる。負けじと両手でその手を掴み直した。


「……僕が妖の姿を見れたことは覚えてるよね? ここにいる皆は同じ境遇の仲間だ。それで僕達はその力を見込まれて、この学校で起きている事件の調査を任されている」


突然赤裸々に話し始めた来光くん。突然何を言い出すのかと私たちは目を丸くする。


「一連の事件の犯人が、僕らと同じような力を持つ人間だって所までは絞り込めてるんだ」


来光くんの話に眉をひそめた。

だってつい先日学校関係者の名簿を本庁に送って照会してもらい、この学校にそれらしき人物はいないと判明したばかりだ。

それに何故今その話をノブくんにする必要があるんだろう。


「ノブくんも見えたね?」

「ハッ、ほんま何も変わっとらんなお前」

「でも一緒に色んな話したじゃん……ッ!」

「アホらし」


ノブくんは背を向けたまま鼻で笑った。


「俺が"妖怪が見える"って言うたんは、お前に近付いて利用するためにそう言うたんや。そんな事にも気付けんとか、ほんまにおめでたい奴やな」


吐き捨てるようにそう言う。


「おいノブくんいい加減にしろよッ!」

「言っていい事と悪い事も分かんねぇのかノブくん」

「ノブくんノブくん煩いねんお前らッ! 外野は黙っとれ!!」


勢いよく走り出したノブくんは、あっという間に走り去ってしまった。残された私たちの間に気まずい沈黙が流れる。


「……とりあえず時間ねぇし、行くか」


口火を切った泰紀くんに、皆「……だね」「そうしよう」と頷く。

歩き出した私達に「ちょっと待って皆」と呼び止めたのは来光くんだった。振り返ると来光くんが、眉根を下げて困ったように笑いながらつま先を見つめていた。


「我ながら嫌になるよ。この学校にノブくんが通ってるって知った時点で、真っ先に疑ってしまったんだ。友達なのに。いや、もう違うのか」


え?と聞き返す。

だってその言い方じゃまるで。

はぁ、と息を吐いた来光くんは天を仰いだ。



「────恐らく犯人は、ノブくんだ」


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