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しおりを挟む売り台から箱を一つ下ろし、差し出すサンタに、寿士はぼそりと言った。
「全部」
「え?」
「5個、全部買ってやるから。運んで」
「ありがとうございます……」
全部で15,000円の買い物にも、眉ひとつ動かさずに、寿士はカードを財布から出した。
「あ。ここは仮設の売り台ですので、クレカが使えません」
どうぞこちらへ、とサンタは寿士を店内に案内した。
支払いをカードでスマートに済ませた寿士が顔を上げると、あのサンタの姿が無い。
「あれ……?」
すると、店の奥から彼は、男性を一人ともなって出て来た。
残りのケーキ5個を全て買い上げる、という客に挨拶をしに、店長が現れたのだ。
「毎度ありがとうございます!」
「その代わり、このサンタさんに運んでもらうから。彼、そのまま直帰にしてもらえる?」
「相沢(あいざわ)くん、今日何時までだったっけ?」
「21時です」
それならOK、と店長の許しが出た。
21時まで、あと15分程度だ。
着替えていると超過勤務になってしまうので、相沢と呼ばれたサンタは、ロッカーから手荷物を出し、サンタ服のままやって来た。
見ると、タクシーの運転手がすでにケーキを車内へ運びこむ最中だ。
「ごめんなさい」
「はい、最後の1個」
寿士はケーキを相沢に渡すと、タクシーに乗り込んだ。
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