冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

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(閑話)パンドラの鍵

機上の杠

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 愛莉の意識が迷宮魔道な世界に潜入していた頃、一人の男が会談へと向かっていた。その男はタブレットで書類を決裁しながら自分の頬の深い傷跡を擦っていた。その傷は見る者に恐怖すら与えるほど酷いものであった。

 「首相、もうすぐ着陸態勢に入るとの事です。シートベルトを締めてください」

 秘書官のAIロボ・シオリに促されゆずりはは、タブレットの機能を一時停止にした。

 「わかった、ところで先方はどうなっているか?」

 「蔡国も麗華も中華も到着しています! 一応は麗華行政委員長の呼びかけで招集という形にしていますが、集めた張本人が一番後というのは問題にされかねませんわ」

 シオリは自身のボディに拘束器具を接続しながら機内を点検していた。その日の会談は非公式かつ緊急のものとされたので、政府専用機ではなく民間のプライベートジェットをチャーターしていた。表向きは予算削減のためであったが、政府内にいるスパイ網の目から逃れるためであった。

 「そうだな。それよりも官房長官からなんか言って来たか?」

 杠は残り少なくなった髪にブラシをかけていた。彼の頬の傷は頭の頭頂部にまで達していた。

 「もう一杯きていますわ! 寝ている間に外遊に行きを決めるなんて勝手すぎると! マスコミから連絡を受けた時には空港にいるなんて! 信用していないのですかと怒っておられました!」

 「そうか。ところで例のパンドラの箱はどうなっている?」

 杠がそういうとシオリは機内をセンサーで探査してから話を続けた。

 「それは準備できたと報告があります。しかし、大丈夫ですか? 場合によっては世界をまた滅亡の淵に追いやりかねませんわよ」

 「ああ、そのリスクは分かっておる。しかし、あの悪魔の復活は近いかもしれないから、取れる手段を講じなければならない。ところで防衛省から報告はあるか?」

 「はい、帝央大学構内のプラントのことですか? 相変わらず無視ですね。あそこは防衛長官でもアンタッチャブルだそうです。それに首相もね」

 「そうか」

 杠は深く座席に腰を沈めて天を仰いでいた。彼は首相とはいえ選挙管理内閣の長のため権限が大幅に制限されていた。前の政権の一部が進めていた、あの悪魔の復活計画を阻止するのが困難になりつつあった。

 首相を乗せたプライベートジェットは麗華旧首都郊外の飛行場を着陸アプローチをしていた。そのとき、シオリにこんなことをいった。

 「地対空ミサイルは飛んできてないだろうか? なんだってわしは組織の裏切り者だから消されてもおかしくないし」

 「いまのところ大丈夫ですわ。連中もパンドラの鍵は必要ですから、とりあえず日本に帰れますわ首相」

 「そうか」

 うなずいた杠が窓の外を見ると巨大なクレーターが瞳に飛び込んできた。それは初代エキゾチック・ブレインによって引き起こされた災禍の痕跡であった。
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