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迷宮魔道な場所へ

115・晴美の記憶を持つロボット

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 畦地晴美という女を愛莉は好きでなかった。でもタオ先輩の手前、それなりの態度をとっていたつもりだった。でも嫌っているのは彼女も同じであった。愛莉は持って生まれた高い知能で問題を簡単に解ける事に嫉妬していた。晴美から言わせればさしずめ機械のような女と。そんな彼女は今や完全なロボットになっていた。

 人間の電脳化を行う場合、元の脳細胞を電子素子に変換するには様々な方法がある。ただ置き換えるだけでは複雑な人間の自我を再現できなくなる危険があり、電脳化の措置を取るには技術的なハードルがあった。愛莉の場合は「連中」の手回しで、世界でも五本の指に入る技術を持つ柴田技師長によって改造されので、人格の再現はしやすいほど高性能だった。

 しかし晴美の場合は、臓器移植のために摘出される腎臓のような扱いで元の身体から抜かれて、相当簡便な手法で電脳化されたようだと、そう愛莉は思った。なぜなら目の前の晴美を名乗る機体はただのロボットでしかないと感じたからだ。晴美の記憶を持つロボットだと。

 晴美の外観はガイノイド・アイリのものよりもシンプルで量産型ガイノイドの外骨格であった。優雅な曲線美は無く3D設計ではなく紙の上に定規で設計されたような直線的な感じがする武骨そのものと感じられた。そして仕草はギコチナイし、機能も限定的のようだった。どうやら間に合わせに電脳を移植したようにも思えた。

 「愛莉、とりあえずあたしがサポートします。よろしく。人間だった時はあなたは嫌だったけど、同じ機械に生まれ変わったので、組織に従っていきましょう」

 抑揚のない晴美の言葉に人間だった時の感情があるように感じられるが、それは記録でそうなっているだけのようだ。晴美の肉体は喪失し電脳化される際に感情といった自我を失くしてしまい、今は組織と呼ぶ「連中」の操り人形でしかなかった。金属と合成樹脂で構成された人形を稼働させるだけのシステムでしかなかった。

 もっともそれはアイリも一緒であった。ただ、アイリにはアイリと山村愛莉の自我があった、二つであったが。いま、此処には組織に必要とされているアイリの方しか存在しないはずであったが、もうひとつの愛莉は「連中」の黒幕を暴くためにいた。それは危険な事であった。バレるのは時間の問題なのかもしれないからだ。このとき、不安な点があった。もし、この瞬間に本体とのリンクが解除されたら自分の自我はどうなってしまうのだろうか? 上手くやってくれたらいいのであるが、淳司とクラウゼを信じるしかなかった。


 「それでは愛莉。立ち上がって!」

 晴美はアイリの機体を持ち上げた、与えられた指示に従って。この時、愛莉は彼女には元の人間の姿に戻れる可能性がないことが切なくなった。たとえ、嫌な女といえども「連中」の犠牲者に変わりないから。
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