冤罪! 全身拘束刑に処せられた女

ジャン・幸田

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エリーは探偵として推理する

46・真由美とエリーの中の愛莉

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 エリーが書架を掃除していた時、廊下から聞こえてきたのは電動車椅子の作動音だった。それは真由美のものであった。かつて身体に障害を負っていた人たちは現在ではサイバネチック・テクノロジーによって健常者と同様な身体を手に入れる事が出来るようになっていた。身体をサイボーグ化することであり、国も福祉制度によって経済的負担を死ぬまで援助するよりも安上がりだとして、改造手術費用の国家負担をしていた。おかげでこの国のサイバネチック・テクノロジーは飛躍的に向上し、世界各地から改造希望者が殺到していた。

 真由美は膝下から両足を切断していたが、両足ともサイボーグ義足にすれば普通に歩けるようになるはずだが、それを彼女は断固拒否していた。自分の父の会社でサイボーグ化ボディの製造をしているというのにである。その理由を愛梨が随分前に聞いたことがあったが、こんな風に言われた。

 「そのことだけど、お姉ちゃんでも理由はいいたくないわ。でもね、それをやるとなくなってしまうかもね」

 この短い言葉の中に隠された真由美の真意は分からなかった。いくら分析能力に優れた愛莉であっても。人間の心理という物はロジックで判断できなかった。そう考えていた時、エリーの横のドアが開いた。真由美が入って来た。

 「はー、なんだかさっきの授業はつまんないなあ。それに九十分だなんて長過ぎよ! 居眠りしないようにするのが精一杯だなあ、大学の授業って退屈よ!」

 そんなふうな嘆き事をいっていた。真由美の私服はごく平凡な学生たちと同じ服装をしていたが、その顔は可愛らしく、少しブロンズかかった長髪は幼い少女たちが憧れるような美しい人形の髪に似ていた。その髪を事情をしらない大人たちが髪を染めているなんて、責めた時はいつも愛梨が間に入っていた。真由美にとって愛梨は友人であり姉であり保護者と同様であった。

 「おかえりなさい安養寺さん。今日はお帰りですか?」

 その時、時刻は午後五時を回っていて、春の陽気は日暮れの色を帯び始めていた。

 「そうよ、エリー! あたし帰るわ! パパと話しなきゃいけない事があるからね。そうだね、あなた苗字で呼ばないでほしいなあ。あたしのことは真由美と呼んで! いい!」

 真由美はそういって、エリーに近寄って来た。この時、エリーに宿る愛梨は真由美を抱きしめたかった。あなたの探している私はここにいると。でも、それは出来なかった。

 「わかりました、真由美さん。もうすぐここも戸締りしますから」

 「戸締り? でも、あなたって帰らないのどこかに?」

 「私はここ丹下犯罪学研究所所属のガイノイドですわ。ここが待機場でありますし、メンテナンス装置もありますから。ここで業務が終了したら待機状態になります」

 「そおなんだあ、でも寂しいでしょ? 一人じゃ? あたしがあなたの立場だったら嫌よ、こんな本棚に囲まれた場所で過ごすなんて!」

 「それは大丈夫ですわ。私はガイノイド。人々に奉仕するために創造された機械なのですから」

 他愛のない会話の中でエリーは偽りの意思表示をしていた。愛梨はここで物体として過ごすのは嫌だった。もし許されるのなら高校の時のように一緒に真由美と同じ部屋で寝起きをしたかった! はやく、このエリーという名の牢獄から解放されたかった。
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