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エリーは探偵として推理する
47・閉ざされた身と心
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全身拘束刑に処せられている服役囚の改造度合いに程度の差があり、外見上は改造されていない軽度なものから身体も全身も完全に人間に見えない重罰なものまであった。愛梨は十年、という短期にも関わらず終身刑に近い改造度合いであった。そのようになったのも柴田技師長への司法長官執行命令書がそうなっていたからだ。そこまで改造度合いが高かったのも山村愛莉という人間がいた痕跡を消し去り、よからぬ企みに電脳化された愛莉を使うのは明白だった。ただ、それが誰なのかは分からなかった。
そこまで違法な事をさせているのだから、現在判明している被疑者だけでも逮捕すればわかりそうなものであったが、なぜか淳司やそのクライアント、そのクライアントの正体もあやしいものであったが、それらが動こうとしていなかった。どうやらアイリを囮につかっているようであった。
この時、愛莉はダミーのエリーの機体の中に入れられていた。このエリーというのは同じように全身拘束刑を受けた女囚人を超法規的な司法取引によって立場をいれかえたようだ。本物のエリーは何処かに匿われているようだった。淳司によれば全身拘束刑の囚人は改造場面を終始記録されているので、途中から入れ替えているんだという。そして刑期が始まってからの記録は全て改竄しているという。それができるのも、淳司のクライアントの配下のものが担当しているからだという。
そんな複雑な事をするのなら、もう少し自由に出来るようにしてくれたらいいのにと愛梨は嘆いていた。淳司によれば重罰の全身拘束刑の受刑者は電脳に強力なプロテクトがかけられているので、徐々にしか解除できないという。一気にすれば電脳がクラッシュする危険があり、仕方ないとのことだった。
人間の真由美の前で愛莉はプログラムで許容されたかつどうしかできなかった。だから、真由美にはガイノイドにしか見えなかった、はずなのだが。
「エリー、あなたと最初に会った時、なんていったかしらお姉ちゃんみたいだなと言ったよね」
「真由美さん、そう言われましたわね。それがどうされました」
「それなんだけど、背格好がなんとなくお姉ちゃんみたいだなって」
真由美の指摘はある程度正しかった。ガイノイドは量産型と言えども画一的にならぬように多少の身長差やタイ格差が出るように製造されているのだが、人間を素材にしたサイボーグ型ガイノイドの場合、多少は膨らんでいるが元の体形に近くなることもあった。
「そうなんですか? それは偶然だと思いますわ真由美さん」
エリーの人工音声はそう答えたが、その音声が愛莉のオリジナルボイスに似ていないのがせめてもの救いだった。
「そうかあ、偶然かしら。でもね、ここに入ったらお姉ちゃんに甘えたかったのよ、本当はね。お姉ちゃんと一緒に遊びにいったりしてね、行きたかった旅行にもね。高校の時には許可出なかったからね、親族でもない生徒と旅行に行くなんてまかりならぬなんていわれてね。だからわざと帰省しなかったこともあったしね。お姉ちゃんは帰るおうちがないというから・・・」
そこで真由美はなにか感極まってしまい涙ぐんでしまいそのまま顔をうずめてしまった。彼女がそんな態度をとるのをみるのは知っている限り愛莉の前だけだった。学生寮では気丈に振る舞って先輩に非がある場合などは、かかっていきほどだったが。
「ごめんなさいね、ついお姉ちゃんはどうしているだろうと思ってね。なんだって役所に行方を問い合わせてもお姉ちゃんの記録がないので受け付けられないなんていうもんだから、消えてしまったようにね。しかも理由も教えてもらえないというのよ、役所でも理由がわからないなんていうしね」
真由美がいうように、愛梨の住民登録は抹消されているうえ、過去の履歴も封印されているので存在しなかった人間になっていた。それが全身拘束刑受刑者の刑罰のひとつだった。機械の中で生きていてもそれは人間として扱われないというわけだ。
「そうなのですか? 分かればいいのにですね」
エリーはプログラムの範囲でしか返さなかった。エリーの素体の記憶は人間に話すことができないからだ。目の前にいるのが愛莉のなれの果てなんてことは。
「そうよう! だからあなた一緒に理工学部に行ってよね。丹下教授にその条件で御願いしているから。そうしないと、ある程度自由に行けないというからね」
真由美のお願いにエリーは応じなければいけなかったが、愛梨はやめた方がいいと思っていた。もしかすると理工学部で不測の事態が起きかねなかったからだ。素人探偵気取りで真由美が入ったら危険な目に合うかもしれなかったし、もし連中に意図がバレたらトンデモない危険に会うかもしれなかった。しかも相手は一人の少女を機械にしてしまった連中だし。
「分かりました。でも立ち入り禁止エリアへの侵入は可能な限りおやめください。今後の学生生活に支障をきたしますから」
「わかったわよ、エリー。明日は御願いよ、今日は帰るわ。じゃあね」
そういって真由美は帰っていった。その時愛梨の電脳に淳司からのメッセージが届いた。それには今日は直帰するから、研究室の戸締りをして適当な時間に活動停止しなさいというものだった。この研究所には今日は人間はやってこないという事だった。この研究所のある建物は夜間は警備ロボットが巡回するが、もちろん機械なのでこれから朝までエリーではなく愛莉として動けることになった。
「うーん、いやだなあ、この身体。まるでロボットじゃん! 呼吸しているように感じないし暑くも痒くもないんだからね」
そういって愛梨は、丹下教授が壁に取り付けた姿見の前でエリーの機体でストレッチをしていた。刑を受ける前の身体とは違い全て機械化されたようなボディを見ていた。動きこそ人間に近くても、メタリックな輝きを放っている外骨格ボディは愛莉を憂鬱にさせた。
そこまで違法な事をさせているのだから、現在判明している被疑者だけでも逮捕すればわかりそうなものであったが、なぜか淳司やそのクライアント、そのクライアントの正体もあやしいものであったが、それらが動こうとしていなかった。どうやらアイリを囮につかっているようであった。
この時、愛莉はダミーのエリーの機体の中に入れられていた。このエリーというのは同じように全身拘束刑を受けた女囚人を超法規的な司法取引によって立場をいれかえたようだ。本物のエリーは何処かに匿われているようだった。淳司によれば全身拘束刑の囚人は改造場面を終始記録されているので、途中から入れ替えているんだという。そして刑期が始まってからの記録は全て改竄しているという。それができるのも、淳司のクライアントの配下のものが担当しているからだという。
そんな複雑な事をするのなら、もう少し自由に出来るようにしてくれたらいいのにと愛梨は嘆いていた。淳司によれば重罰の全身拘束刑の受刑者は電脳に強力なプロテクトがかけられているので、徐々にしか解除できないという。一気にすれば電脳がクラッシュする危険があり、仕方ないとのことだった。
人間の真由美の前で愛莉はプログラムで許容されたかつどうしかできなかった。だから、真由美にはガイノイドにしか見えなかった、はずなのだが。
「エリー、あなたと最初に会った時、なんていったかしらお姉ちゃんみたいだなと言ったよね」
「真由美さん、そう言われましたわね。それがどうされました」
「それなんだけど、背格好がなんとなくお姉ちゃんみたいだなって」
真由美の指摘はある程度正しかった。ガイノイドは量産型と言えども画一的にならぬように多少の身長差やタイ格差が出るように製造されているのだが、人間を素材にしたサイボーグ型ガイノイドの場合、多少は膨らんでいるが元の体形に近くなることもあった。
「そうなんですか? それは偶然だと思いますわ真由美さん」
エリーの人工音声はそう答えたが、その音声が愛莉のオリジナルボイスに似ていないのがせめてもの救いだった。
「そうかあ、偶然かしら。でもね、ここに入ったらお姉ちゃんに甘えたかったのよ、本当はね。お姉ちゃんと一緒に遊びにいったりしてね、行きたかった旅行にもね。高校の時には許可出なかったからね、親族でもない生徒と旅行に行くなんてまかりならぬなんていわれてね。だからわざと帰省しなかったこともあったしね。お姉ちゃんは帰るおうちがないというから・・・」
そこで真由美はなにか感極まってしまい涙ぐんでしまいそのまま顔をうずめてしまった。彼女がそんな態度をとるのをみるのは知っている限り愛莉の前だけだった。学生寮では気丈に振る舞って先輩に非がある場合などは、かかっていきほどだったが。
「ごめんなさいね、ついお姉ちゃんはどうしているだろうと思ってね。なんだって役所に行方を問い合わせてもお姉ちゃんの記録がないので受け付けられないなんていうもんだから、消えてしまったようにね。しかも理由も教えてもらえないというのよ、役所でも理由がわからないなんていうしね」
真由美がいうように、愛梨の住民登録は抹消されているうえ、過去の履歴も封印されているので存在しなかった人間になっていた。それが全身拘束刑受刑者の刑罰のひとつだった。機械の中で生きていてもそれは人間として扱われないというわけだ。
「そうなのですか? 分かればいいのにですね」
エリーはプログラムの範囲でしか返さなかった。エリーの素体の記憶は人間に話すことができないからだ。目の前にいるのが愛莉のなれの果てなんてことは。
「そうよう! だからあなた一緒に理工学部に行ってよね。丹下教授にその条件で御願いしているから。そうしないと、ある程度自由に行けないというからね」
真由美のお願いにエリーは応じなければいけなかったが、愛梨はやめた方がいいと思っていた。もしかすると理工学部で不測の事態が起きかねなかったからだ。素人探偵気取りで真由美が入ったら危険な目に合うかもしれなかったし、もし連中に意図がバレたらトンデモない危険に会うかもしれなかった。しかも相手は一人の少女を機械にしてしまった連中だし。
「分かりました。でも立ち入り禁止エリアへの侵入は可能な限りおやめください。今後の学生生活に支障をきたしますから」
「わかったわよ、エリー。明日は御願いよ、今日は帰るわ。じゃあね」
そういって真由美は帰っていった。その時愛梨の電脳に淳司からのメッセージが届いた。それには今日は直帰するから、研究室の戸締りをして適当な時間に活動停止しなさいというものだった。この研究所には今日は人間はやってこないという事だった。この研究所のある建物は夜間は警備ロボットが巡回するが、もちろん機械なのでこれから朝までエリーではなく愛莉として動けることになった。
「うーん、いやだなあ、この身体。まるでロボットじゃん! 呼吸しているように感じないし暑くも痒くもないんだからね」
そういって愛梨は、丹下教授が壁に取り付けた姿見の前でエリーの機体でストレッチをしていた。刑を受ける前の身体とは違い全て機械化されたようなボディを見ていた。動きこそ人間に近くても、メタリックな輝きを放っている外骨格ボディは愛莉を憂鬱にさせた。
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