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05 依頼と黒狗
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パンパンと柏手を打つ。音が境内に高らかに響く。
姉ちゃんの目が覚めますように。彼女……サハラと『仕事』ができるようになったらいいなあ……。
一礼して社殿を拭き清めるために中に一歩入ると、目の前に白羽様とスズシロが並んで座っていた。白羽様はあぐらをかき、スズシロは正座(?)している。
『こら! 無礼者! いつか叱らねばならぬと思っていた!』
スズシロがいきなり怒ってきた。
『百歩譲って姉のことを考えるのは良しとしよう。だがあの娘のことはお前がなんとかしろ! 白羽様は人間如きの願いを叶えるために座すのではないわ!』
「な……え……」
『昭衛はなんと言ったか! 思い出すがよい』
頭が混乱する。え。神様って、願い事をするんじゃなかったっけ……。じいちゃん……。
──手を合わせるんじゃないんだよ、イチカ。
──ちがうの?
──柏手を打つんだよ。手を少しずらして打った方が音が大きくなる。この音で神様に来たことをお知らせするんだよ。
──そうすると、お願いを聞いてくれるの?
じいちゃんはその時、はははと笑った。
──考えてご覧、イチカ。だれだって、家に来た人がいきなり頼み事を言い出したら嫌じゃないかな。まずはご挨拶だよ。毎日、毎日、おはようございます、今日はお加減はいかがですか、本日も宜しくお願い申し上げます、そこから始めるんだ。とほかみえみため、だよ。そして、本日も良い日でしたね、お陰様で、ありがとうございました、左様ならばで終わるんだ。
「あっ!」
『うつけ』
慌てて正座して三つ指をついた。
「本日も宜しくお願い致します」
『宜しい』
ぱっと顔を上げると、二人とも消えていた。
その日教室に入ると、黒い犬のようなものがいた。明らかに本物の犬ではない。一見ドーベルマンのような、大型の黒い鼻の長い犬だが、尻尾が猫のように細く長い。こんなにでかいのに誰もそれに注意を払わない。サハラさんにも見えていないようだ。
休み時間にサハラさんがそっと近づいてきた。
「ね、イチくん、もしかして何かしてくれた? 今朝からなんだけど、家の中が怖くないの。びっくり」
「や………」
心当たりはない、と言いかけて、はたと黒い犬のようなものに目が止まった。サハラさんの足元あたりにずっと付いている。これか?
「あー………えと、ちょっとややこしい話なんで……放課後話せないかな? うちの神社に来てもらってもいいし」
「いいよ。行くね。家で待ってて。おうち、隣に建ってる建物でしょう」
こくりと頷くと、彼女はにこにこしながら席に戻って行った。ヨーヘーが後ろからパンと下敷きで殴ってきた。
スズシロは当たり前のような顔で上がり込んでいて、イチカの質問に答えた。
『あの黒狗は白羽様の手飼いの神獣である。お前がお願い事などするから、あの娘に貸し与えてくださったのだ。なんと畏れ多い』
「やっぱり! あれがいると幽霊を追い払ってくれるの?」
『あれは喰う』
「は?」
『魑魅魍魎の類なら、喰ってしまう。おそらくあの娘の棲家くらいは今ごろきれいに何もなくなっておるだろう』
怖っ!
ピンポンとチャイムが鳴ったので玄関を開ける。サハラさんが胸の横で軽く手を振った。
「こんにちは」
「……こんにちは。上がる?」
思わず言ってしまう。
「誰かいるの? 家族の人とか」
「いや、うちはいないんだ、誰も」
『ふん』
スズシロが鼻を鳴らす。彼女はちょっと目を泳がせた。
「あ! 外だと暗いし寒いからさ。誰か来るかもしれないし」
そもそもスズシロがいるから二人きりではない。安心してほしい。言えないけど。
「じゃ、お邪魔します」
彼女が家に上がると、黒い犬も付いてきた。よく見ると赤い、ぷくぷくとした紐を捻ったような布が首輪のようにつけられている。
二人と二匹で向かい合わせに客間に座った。二匹のことは彼女には見えていない。
「神社の人のおうちって初めて入った。広いね」
「うん、掃除が大変で。神社の方は毎日だけど、家の方は週一だよ、さすがに」
「お父さんとお母さんは? 仕事?」
「いや、うち両親いないんだ。じいちゃんも死んで、俺一人なんだよ」
彼女は、しまった、という顔をして手を口元に当てた。表情がものを言う。かわいいな、と思った。
「気にしてない。で、えーと幽霊がいなくなった件だよね。俺は何もしてないんだけど、神社の」
なに? 神様が……って説明? イチカはふと口をつぐんだ。自分が話そうとしていることが、ものすごく電波な感じに思える。
「神社にお参りしてくれたからじゃない?」
「え、そんなことで?」
『おい、ちゃんと言ったらよかろう。どうして誤魔化す』
「………」
だって、まるでインチキな霊能力者みたいだ。「俺が神様にお願いして守りの犬を君に派遣してもらったんだ。そのおかげで君の家の幽霊は全部食べられて綺麗になっただろ。今も君の隣にいるんだよ」。
「じゃあ、イチくんの神社はすごいんだね!」
「よその神社のことはわかんないけど、ほかのとこと変わらないと思うよ」
「でも私、だいぶいろんな神社とかお寺とかに行ったんだよ。お守りも買ったし、お札も貼った。でも全然だめだったの」
『まあ、ちょっと祈祷したくらいの気休め程度の量産型お守りではな。餓鬼がどくかすら怪しい』
「お参りするだけでいなくなるなんて凄い!」
「その、サハラさんが見えちゃうのは、昔から? 誰か身近にほかにもいた?」
「昔から。あのね、おばあちゃんが昔イタコだったんだって。私が小さい頃に死んじゃって覚えてないの。でもたぶん、おばあちゃんもそういう体質だったんだと思う」
彼女は堰を切ったように話し始めた。誰にも言えなかったんだろう。
「小さいころはね、死んだ人と生きてる人の見分けがつかなかったの。たまにすり抜けちゃう人がいるなって。いつ見てもあそこに居る人がいるなあ、とか。でもお母さんに言っても通じないの。気味の悪いこと言わないでって。友達に言ってもさ、誰もわかってくれないし、頭おかしいとか言われるし。だから誰にも言わなくなったんだけど、やっぱりさ、つらいんだよね。前住んでたとこ、電車によく乗ったんだけど、何度も電車に飛び込む人とか、階段から手が生えてたりとか、ほんとに嫌だった。誰かと話せたらいいのにってずっと思ってたの」
「そうだよね。わかるよ」
イチカもサハラさんにスズシロのことが見えていたらどんなに話が早かったか、としみじみ思った。
「……家もさー、なんか、ちっちゃい鬼みたいなのがあっちこっちにいるし……男の人がお風呂を覗きに来てたの。生きてる人じゃないんだよ。だからゆっくり入れなかったの。夜中に誰か押し入れから見てくるしさ……ほんとにさ………」
彼女はぽろっと涙をこぼした。
「ほんとに……たすかった……」
イチカが慌ててティッシュを差し出すと、彼女は涙と鼻をぬぐった。
「また来てもいい?」
「うん。もちろん」
彼女は少しまだ赤い目をして帰って行った。
「えっ」
イチカが振り返ると、あの犬が家に残っていた。
「お前! 彼女に付いていかないのかよ」
『もう喰い終わっているのだ。当分は何も出まい。お前、鼻の下が伸びていたぞ』
「うるさいな! もう大丈夫なのか? 家は」
『当分、だ。あの娘のように、見えてしまっていれば自然とまた寄ってくる。餓鬼が家にいたのも、元々いたのだろうが、彼女の視線に反応して寄ってきたのもいるだろう』
「そうなんだ……」
一人で怖い思いをして、誰にも言えなかったんだ。辛かったんだな。
「なんで寄ってくんの? 見えてるのが……」
リリリリ、と家の電話が鳴った。
『取れ。依頼だ』
スズシロが言った。依頼?
「はい。白羽神社です」
「あの……すみません、お祓いってやってますか?」
姉ちゃんの目が覚めますように。彼女……サハラと『仕事』ができるようになったらいいなあ……。
一礼して社殿を拭き清めるために中に一歩入ると、目の前に白羽様とスズシロが並んで座っていた。白羽様はあぐらをかき、スズシロは正座(?)している。
『こら! 無礼者! いつか叱らねばならぬと思っていた!』
スズシロがいきなり怒ってきた。
『百歩譲って姉のことを考えるのは良しとしよう。だがあの娘のことはお前がなんとかしろ! 白羽様は人間如きの願いを叶えるために座すのではないわ!』
「な……え……」
『昭衛はなんと言ったか! 思い出すがよい』
頭が混乱する。え。神様って、願い事をするんじゃなかったっけ……。じいちゃん……。
──手を合わせるんじゃないんだよ、イチカ。
──ちがうの?
──柏手を打つんだよ。手を少しずらして打った方が音が大きくなる。この音で神様に来たことをお知らせするんだよ。
──そうすると、お願いを聞いてくれるの?
じいちゃんはその時、はははと笑った。
──考えてご覧、イチカ。だれだって、家に来た人がいきなり頼み事を言い出したら嫌じゃないかな。まずはご挨拶だよ。毎日、毎日、おはようございます、今日はお加減はいかがですか、本日も宜しくお願い申し上げます、そこから始めるんだ。とほかみえみため、だよ。そして、本日も良い日でしたね、お陰様で、ありがとうございました、左様ならばで終わるんだ。
「あっ!」
『うつけ』
慌てて正座して三つ指をついた。
「本日も宜しくお願い致します」
『宜しい』
ぱっと顔を上げると、二人とも消えていた。
その日教室に入ると、黒い犬のようなものがいた。明らかに本物の犬ではない。一見ドーベルマンのような、大型の黒い鼻の長い犬だが、尻尾が猫のように細く長い。こんなにでかいのに誰もそれに注意を払わない。サハラさんにも見えていないようだ。
休み時間にサハラさんがそっと近づいてきた。
「ね、イチくん、もしかして何かしてくれた? 今朝からなんだけど、家の中が怖くないの。びっくり」
「や………」
心当たりはない、と言いかけて、はたと黒い犬のようなものに目が止まった。サハラさんの足元あたりにずっと付いている。これか?
「あー………えと、ちょっとややこしい話なんで……放課後話せないかな? うちの神社に来てもらってもいいし」
「いいよ。行くね。家で待ってて。おうち、隣に建ってる建物でしょう」
こくりと頷くと、彼女はにこにこしながら席に戻って行った。ヨーヘーが後ろからパンと下敷きで殴ってきた。
スズシロは当たり前のような顔で上がり込んでいて、イチカの質問に答えた。
『あの黒狗は白羽様の手飼いの神獣である。お前がお願い事などするから、あの娘に貸し与えてくださったのだ。なんと畏れ多い』
「やっぱり! あれがいると幽霊を追い払ってくれるの?」
『あれは喰う』
「は?」
『魑魅魍魎の類なら、喰ってしまう。おそらくあの娘の棲家くらいは今ごろきれいに何もなくなっておるだろう』
怖っ!
ピンポンとチャイムが鳴ったので玄関を開ける。サハラさんが胸の横で軽く手を振った。
「こんにちは」
「……こんにちは。上がる?」
思わず言ってしまう。
「誰かいるの? 家族の人とか」
「いや、うちはいないんだ、誰も」
『ふん』
スズシロが鼻を鳴らす。彼女はちょっと目を泳がせた。
「あ! 外だと暗いし寒いからさ。誰か来るかもしれないし」
そもそもスズシロがいるから二人きりではない。安心してほしい。言えないけど。
「じゃ、お邪魔します」
彼女が家に上がると、黒い犬も付いてきた。よく見ると赤い、ぷくぷくとした紐を捻ったような布が首輪のようにつけられている。
二人と二匹で向かい合わせに客間に座った。二匹のことは彼女には見えていない。
「神社の人のおうちって初めて入った。広いね」
「うん、掃除が大変で。神社の方は毎日だけど、家の方は週一だよ、さすがに」
「お父さんとお母さんは? 仕事?」
「いや、うち両親いないんだ。じいちゃんも死んで、俺一人なんだよ」
彼女は、しまった、という顔をして手を口元に当てた。表情がものを言う。かわいいな、と思った。
「気にしてない。で、えーと幽霊がいなくなった件だよね。俺は何もしてないんだけど、神社の」
なに? 神様が……って説明? イチカはふと口をつぐんだ。自分が話そうとしていることが、ものすごく電波な感じに思える。
「神社にお参りしてくれたからじゃない?」
「え、そんなことで?」
『おい、ちゃんと言ったらよかろう。どうして誤魔化す』
「………」
だって、まるでインチキな霊能力者みたいだ。「俺が神様にお願いして守りの犬を君に派遣してもらったんだ。そのおかげで君の家の幽霊は全部食べられて綺麗になっただろ。今も君の隣にいるんだよ」。
「じゃあ、イチくんの神社はすごいんだね!」
「よその神社のことはわかんないけど、ほかのとこと変わらないと思うよ」
「でも私、だいぶいろんな神社とかお寺とかに行ったんだよ。お守りも買ったし、お札も貼った。でも全然だめだったの」
『まあ、ちょっと祈祷したくらいの気休め程度の量産型お守りではな。餓鬼がどくかすら怪しい』
「お参りするだけでいなくなるなんて凄い!」
「その、サハラさんが見えちゃうのは、昔から? 誰か身近にほかにもいた?」
「昔から。あのね、おばあちゃんが昔イタコだったんだって。私が小さい頃に死んじゃって覚えてないの。でもたぶん、おばあちゃんもそういう体質だったんだと思う」
彼女は堰を切ったように話し始めた。誰にも言えなかったんだろう。
「小さいころはね、死んだ人と生きてる人の見分けがつかなかったの。たまにすり抜けちゃう人がいるなって。いつ見てもあそこに居る人がいるなあ、とか。でもお母さんに言っても通じないの。気味の悪いこと言わないでって。友達に言ってもさ、誰もわかってくれないし、頭おかしいとか言われるし。だから誰にも言わなくなったんだけど、やっぱりさ、つらいんだよね。前住んでたとこ、電車によく乗ったんだけど、何度も電車に飛び込む人とか、階段から手が生えてたりとか、ほんとに嫌だった。誰かと話せたらいいのにってずっと思ってたの」
「そうだよね。わかるよ」
イチカもサハラさんにスズシロのことが見えていたらどんなに話が早かったか、としみじみ思った。
「……家もさー、なんか、ちっちゃい鬼みたいなのがあっちこっちにいるし……男の人がお風呂を覗きに来てたの。生きてる人じゃないんだよ。だからゆっくり入れなかったの。夜中に誰か押し入れから見てくるしさ……ほんとにさ………」
彼女はぽろっと涙をこぼした。
「ほんとに……たすかった……」
イチカが慌ててティッシュを差し出すと、彼女は涙と鼻をぬぐった。
「また来てもいい?」
「うん。もちろん」
彼女は少しまだ赤い目をして帰って行った。
「えっ」
イチカが振り返ると、あの犬が家に残っていた。
「お前! 彼女に付いていかないのかよ」
『もう喰い終わっているのだ。当分は何も出まい。お前、鼻の下が伸びていたぞ』
「うるさいな! もう大丈夫なのか? 家は」
『当分、だ。あの娘のように、見えてしまっていれば自然とまた寄ってくる。餓鬼が家にいたのも、元々いたのだろうが、彼女の視線に反応して寄ってきたのもいるだろう』
「そうなんだ……」
一人で怖い思いをして、誰にも言えなかったんだ。辛かったんだな。
「なんで寄ってくんの? 見えてるのが……」
リリリリ、と家の電話が鳴った。
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