完璧な惚れ薬を作って、今日こそあの人とラブラブになります!

入海月子

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頼みごと

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 昼食から戻ってみると、さすがにクロードはいなくなっていて、ラフィーはほっとする。
 どうやら今日もガイラに追い払われたらしい。

「かわいそうに。クロードのどこが不満なんですか?」

(あんなにハイスペックな男がダメなら誰だったらいいんだろう?)

 ガイラはクロードの貢物の焼菓子をパクつきながら、顔をしかめた。

「だからー、若すぎるって言ってるの! 私の好みはもっと渋いオジサマなのよ」
「例えば?」
「ダンバル騎士団長とか、サリド宰相とか?」
「えぇー! 本当にかなりのオジサマじゃないですかー! しかも、既婚者!」

 例に挙げられたのは男前だが、ロマンスグレーのシニアに差し掛かった二人だった。

「だから、指をくわえて見てるんじゃない。私の好みの人はだいたい結婚してるのよね……。あー、どこかに妻と死に別れたナイスミドルはいないかしらー?」

 ガイラが嘆いて、天井を見上げた。

「でも、師匠って面食いではあるんですねー。だったら、クロードをキープして、渋くなるのを待てばいいんじゃないですか?」
「ふむ。そういう風に考えたことはなかったわね」

 検討するようにガイラは腕を組んで首を傾げたが、「いやいや」と首を振った。

「頃合いになるまで何年待てばいいのよ!」
「んー、だったら、老ける薬とかないんですか? クロードだったら喜んで飲みそう」
「あることはあるけど、そういう問題じゃないのよね」

 ガイラは苦笑した後、突如、ニヤッとして、ラフィーを見た。

「私のことはどうでもいいわ。ラフィーこそ、最近どうなのよ?」
「どうって?」
「恋話よ! 楽しい話はないの?」
「なにもないですよ?」

 さっきのリュオとの会話を思い出して、ラフィーは切ない顔で言う。
 そもそもリュオは誰に対してもクールで、話しかけられるだけ、ラフィーはマシな方だと思う。
 笑顔を浮かべることも滅多にない。
 というより、ラフィーは彼の笑顔を今まで一度しか見たことがない。

(あの時……)

 蕩けそうな笑顔で話すリュオを見かけて、衝撃を受けた。
 恋心を自覚するとともに失恋した。

「若いのにつまらないわねー。誰か振り向かせたい人の一人や二人ぐらいいるでしょ?」
「二人はいませんが……」
「じゃあ、一人はいるのね!」

 ガイラが食いついてきて、ラフィーはしまったと思う。
 ぼんやり思い返していたラフィーは、師匠の質問にうっかりまともに答えてしまったのだ。

「望みはゼロなので……」
「そうかなぁ? んー、それなら、惚れ薬でも作ったら?」

 いいことを思いついたとばかりにガイラは目を輝かせた。

「惚れ薬?」
「どんな男も思いのまま、あなたにべた惚れになる薬よ~。楽しそうじゃない?」
「べた惚れ……」

(リュオがそんな風になるなんて、想像もつかない……)

 ラフィーはそう思ったが、ふと先ほど思い出していた場面が蘇る。

『隣のベアトリーチェは本当にかわいいんだ。いつも僕が来るのを心待ちにしていて、ドアを開けた瞬間に飛びついてくるんだよ。僕は彼女といるときが一番幸せだな』

 同僚に熱く語るリュオの表情は、今までに見たことがないほど明るく甘く、ベアトリーチェへの愛に溢れていて、あんな目で見つめられたら……とラフィーはうっとりした。

「やる気になったようねー」

 はっと目をやると、ガイラがニヤニヤと楽しげにラフィーを見ていた。

「いえ、でも……」
「まず素材を集めないとね。最初は『月のない夜の湖の水』だよ」
「月のない夜……?」
「新月の夜のことよ。よかったわねー。新月は二日後よ」
「二日後……」

 惚れ薬を作るかどうかはともかく、素材は集めておこうかなとラフィーは思った。




「それで、今夜採取に行くの?」
「はい。そのつもりです。でも、暗いの苦手なんですよね……」
「そういえばそうだったねー。それなのに、ひとりで行くつもり?」
「だって、こんな採取に付き合ってくれる友達なんかいないし」

 ガイラとラフィーが話していると、いつものようにリュオが入ってきた。

「魔力回復薬をくれ」

 ちらっとラフィーを見るだけで、相変わらず愛想の欠片もない。
 ラフィーが頷いて、薬剤を用意していると、ガイラがにこやかにリュオに話しかけた。

「あぁ、リュオ、ちょうどいいわ。今夜、この子の採取に付き合ってやってくれない? どうしても欲しい素材があるんだって」
「ちょっと、師匠!」

 いきなりなにを言い出すんだとラフィーは慌て、リュオは無言でこちらを見る。

「今夜、ルクル湖の水を採取に行くんだけど、この子はこう見えて、暗いのが苦手なんだよねー」
「なんで僕が……」

 迷惑そうに顔をしかめるリュオに、弱点をバラされて赤面したラフィーが激しく首を振る。

「そうですよ! リュオに付き合ってもらうなんて……」
「そう? じゃあ、クロードにでも頼……」
「ちょうど、今夜は暇で暇でたまらなかったんだ。付き合ってやってもいいけど?」

 ガイラの言葉に被せるように早口でリュオが言う。
 まさかの了承に唖然として、ラフィーはリュオを見つめた。
 いいという割にリュオは形のよい眉をひそめ、不機嫌そうにしている。

「無理しなくていいんだよ?」

 ルクル湖は徒歩一時間の距離だけど、正直、ひとりで行くのには不安があるし、リュオがついてきてくれるのはすごくうれしい。
 でも、こんなに嫌そうにされると複雑だ。
 そう思って、ラフィーは顔をしかめる。

「別に、暇だからいいって言ってるだろ。それとも、僕じゃ嫌だって言うの?」
「そんなことないけど……」
「何時に出発するんだ?」
「えっと、夕食を食べてから……」
「じゃあ、八時に正面玄関集合でいい?」
「う、うん」

 さくさくと決められて、ラフィーは戸惑いながらも頷いた。

「じゃあ、また夜に」

 ラフィーが用意した薬を持って、リュオはあっさり立ち去った。
 閉まったドアをぽかんと眺めているラフィーを見て、ガイラがくくっと笑った。
 
「なんですか?」

 ラフィーが振り返ると、ガイラがニヤニヤと楽しそうだ。

「よかったじゃない。リュオが一緒に行ってくれて」

(師匠にはバレてないはずだけど……)

「まさか付き合ってくれるとは思いませんでしたねー。よっぽど暇なのかなぁ」

 平静な振りをしてラフィーが言うと、ぼそっとガイラがつぶやいた。

「バカねー。特級魔術師が暇なわけないでしょ」
「えっ?」
「ううん、なんでもないわよ。よかったわねって言ったのよ」
「そうですね。ひとりはやっぱり不安だったから師匠が頼んでくれて、助かりました。ありがとうございます」
「まぁ、頑張ってきなさいよ」

 ガイラはヒラヒラ手を振ると、調合に戻っていった。

 
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