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農場奴隷編

第30話 出発 A

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「ね、ねえ、その……ご、『ご主人様』……こ、これで良いんでしょ?」

 そういうとアカネルは目を閉じて、唇を僅かにこちらに突き出してくる。
 
 いきなり何言ってんだ……コイツは?

「あっ、えっと──その、わ、私も……お願い、します。『ご主人様』……」

 隣に居たモミジリも、同じことをやり出した。

 ああ、そうか──
 そういえば『奴隷』を検証した時に、ご主人様と言えればキスしてやるとかなんとか言ってたっけ……。

 それで、キスして欲しくなってこんなことを言い出したのか。



 まあ、なんだ。
 可愛いじゃないか。

 俺はアカネルの肩に手を置くと、彼女の願い通りに唇を合わせてやった。
 その次に、モミジリにも同じことをしてやる。

 二人は顔を赤くして、モジモジしながら──

「ねえ、もう一回。いいでしょ? ご主人様──」
「わ、私もです。ご主人様……」

 一度では足りなかったらしく、おねだりしてくる。

 ──やれやれだぜ。

 俺は奴隷の願いに応えて、二人にもう一度キスをする。
 今度のキスは舌を絡めたディープな奴だ。

 二人は最初は驚いていたが、気持ちが良かったのかすぐに受け入れる。

 たっぷりキスをした後で、三人で横になって眠りについた。





 昨日の夜、というか明け方か……
 農場がゴブリンの群れに襲撃されて、壊滅状態に陥った。

 あまりにも呆気なく、俺たちの農場奴隷生活は終わりを告げた。



 朝になってから、生き残った六人で遺体を集めて埋葬した。
 農場主の屋敷の方にも行って、ゴブリンの食べ残しや、惨殺された遺体を埋葬する。ちなみに、この世界では遺体を焼いてから埋葬するのが一般的だ。

 焼かずに埋めると魔物を引き付けてしまうし、食い荒らされてしまうからな。


 屋敷の惨状を見たイルギットは、気落ちして一人で塞ぎ込んでいる。

 今は俺達の、隣の部屋で寝ている。
 半端に慰めの言葉をかけるより、今は一人にしておいた方がいい。

 明日も落ち込んでいるようなら、何とか元気づけることも考えよう。
 俺に上手くできるかは分からないが──。



 アカネルとモミジリが、俺と一緒に寝ると言って聞かなかったので、少し狭いがモミジリの部屋に三人で眠ることになった。
 

 俺たちは一晩で、生活基盤を失ってしまった。
 一緒に暮らしていた奴隷仲間も、仕事も、俺たちの雇用主も──
 二人がキスをせがんできたのはこの不安な気持ちに、圧し潰されそうになっていたからかもしれない。

 


 俺が、昨日助けた女二人。

 一人は年上の女性で、名前はサリシア。
 アカネルとモミジリがサリシア姉さんと呼んで慕っている。

 もう一人はナーズという年下の少女で、この子はアカネル達のことを姉さんと言ってなついている。

 正直言ってついでに助けた二人だが、アカネル達と仲が良い様子を見ると、助けてよかったと思う。



 スラ太郎にはゴブリンの死体の処理と、魔石とドロップアイテムの回収を命じておいた。戦闘に参加せず隠れていた分、一日中働けと命じたおいた。

 ドロップ品と言えば、ゴブリングレートが大剣を落としていた。
 刃渡り三メートル、柄の部分が一メートルのロマン武器だ。
 このグレートソードは早速、専用武器に加えておいた。

 時間を見つけて訓練して、使いこなせるようにしたい。



「屋敷周りの、魔石の回収はどうするかな?」

 農場主とその戦士団は、一方的に虐殺されたわけではなく、戦って死んでいる。
 当然討ち取ったゴブリンの死体もあったので、そこから魔石を取り出せる。

 できれば回収しておきたいが、問題は所有権がどうなっているかだ。
 所有者がいなければ貰っても問題ないし、娘のイルギットが相続しているのなら所有権は自動的に、主人の俺になっているはずだ。

 明日にでも行って、確かめてみよう。


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