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農場奴隷編

第29話 犠牲 B

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 勝てる!
 勝ち筋はある。

 だが…………
 いや、やるしかないか。
 どのみち、全員を助けることは出来ないんだ。
 


 俺は側にいた軽症の女二人に声をかけて、モミジリの部屋へ入れる。
 年上の女と、年下の女だ。

 部屋は五人が入るとギュウギュウだが、しばらく我慢してもらう。

「俺は今からゴブリンの残党を狩りするから、お前らはまだそこに居ろ」
「は? いや、ちょっと、まだあの化け物がいるの?」
「えっと、付いて行っちゃダメ……?」

「ああ……」

 俺は短くそう言うと、部屋を覆うように隠密結界を張る。
 こういう使い方は初めてで、どのくらい結界が持つのかは分からないが、少しの時間持てばいい。

 そういえばスラ太郎はどこにいるのかと気になって居場所を探ってみると、あいつの反応は地下室にあった。

 どうやらずっと、隠れていたらしい。
 まあ、あいつらしい。

 俺はスラ太郎に、そのまま隠れているように命じる。

 俺は敵を迎撃する用意をした。


 

 ゴブリンの群れが現れた。
 
 最初にやってきたのは、戦闘能力300以下の二十五匹だ。
 そいつらは、地面に落ちている人間の肉片を食ったり、まだ生きている人間を襲って殺しだした。
 殺傷能力の高い武器で武装したゴブリンに襲われては、丸腰の人間に勝ち目はない。それに奴らは、奴隷よりも力が強い。

 奴隷たちは、次々に死んでいく。
 俺は隠密結界を張っていて、奴らは気付いていない。

 ゴブリンナイト二匹と、グレートゴブリンは少し遅れてやってきた。
 三匹は連れ立って、歩いてくる。
 
 グレートゴブリンは、身長三メートルを超える恰幅のいい巨漢で、巨大なこん棒を装備している。
 ゴブリンナイトは二メートルほどの身長に、引き締まった体で剣を装備している。

 グレートの方は山賊の頭のような見た目で、ナイトの方は鍛え抜かれたアスリートといった見た目だった。





 俺は周囲のゴブリンとぶつかり、隠密結界が破れない様にだけ気を付けて、まっすぐにグレートゴブリンの元に向かう。
 

 右手に剣を装備し、左手に魔術師の杖を持っている。

 魔力属性は火属性。
 魔術師の杖に炎を作り出しては圧縮をくり返す。


 ゴブリンたちは農場の主戦力を倒して、油断している。
 残っている人間は、戦闘能力の低い者ばかり──
 奴らにとっては、エサにしか見えないだろう。

 俺はグレートゴブリンの十メートル手前まで近づいて、油断しきった奴に圧縮しまくった火炎球を放った。

 火炎球はグレートゴブリンに直撃した。
 周囲の二匹も巻き添えにして炎は広がり、巨大な火柱を天へと伸ばす。

 俺が使える、最大火力の攻撃魔法だ。


 MPの大半を使ってしまったが、この場合は仕方がない。
 不意打ちで一気に勝負をかけないと、勝ち目なんかない。


 


 俺は左手に持った魔術師の杖を異空間へと収納して、魔力属性を変化させる。
 俺の放った炎の魔法は、グレートゴブリンの上半身を焼き切って消えた。

 辺りは再び、暗闇に包まれる。
 
 俺の左右から、同時に斬撃が襲ってくる。
 
 グレートゴブリンに放った炎は、両隣にいたゴブリンナイトも巻き込んだ。
 ダメージを与えることは出来たが、仕留めるまでには至らなかったようだ。

 俺は斬撃を後ろに下がって躱す。
 さらにゴブリングレード二匹の追撃が、流れるように襲ってくる。

 俺は二匹の攻撃を捌くので精一杯で、反撃に出る余裕はない。


 敵の攻撃を、剣で受け止める。

 力負けはしていない──
 だが二対一だ。

 このままでは、押し切られるだろう。
 俺は目を閉じて、空間探知で敵の動きを見極める。 

 それから数十秒、その状態で敵の攻撃に対処する。
 斬撃を躱しきれずに、傷を負ったり防具で受け止めることが増える。

 そろそろ良いか──
 俺は完全にランダムなタイミングで、光魔法を放つ。

 目を瞑っている俺にも、辺りが光で包まれていることが解かるほどの光量だ。
 
 光が収まってから──
 俺は目を開けて、周囲を見る。

 二匹の魔物は完全に、目をやられていた。
 手で顔を覆って、蹲っている。

 隙だらけだ。
 俺は戦闘能力の強いほうから順に、首を切った。


 今の光で──
 奴隷たちを襲って食っていた他のゴブリンたちが、こちらの状況に気付く。
 奴らは食事を中断して、俺に襲い掛かってきた。




 それから十分後──
 俺は襲ってきた、二十五匹のゴブリンを殲滅した。


 夜が明けて、朝日が昇る。
 この農場で生き残ったのは、俺以外には五人だけだった。
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