大好きな恋人が、いつも幼馴染を優先します

山科ひさき

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 オリビアに自分自身がしてきた仕打ちを並べ立てられたロバートはうなだれた。

「違う……俺は、決してそんなつもりじゃなかった」
「……どういう意味ですか?」
「……好きだった。多分、最初に声をかけられた時から」

 え、と思わず口からこぼれた。うまく頭で言葉を処理できず、何度かまばたきをした。
 ロバートは暗い表情のままで、話を続けた。

「付き合い始めたからって浮かれてかまい過ぎると、すぐに飽きられてしまうだろうと思ったんだ。君は美人だから、俺はたまたまちょっと興味を持たれただけだと、すぐに冷めてしまうだろうと言われた。だからあえてそっけなくしたほうがいいって……」
「ちょっと待ってください」

 先ほどの発言で衝撃を受けてしまって、ロバートの話はすんなりと頭に入ってきたとは言い難かったが、それでも聞いていてふと引っかかりを覚えた。彼の言葉を止める。

「言われた、って一体誰にですか?」

 そう聞きながらも、どこかで答えを確信していた。そして、彼の答えはオリビアが予想していた通りのものだった。

「……カミラに」

──やっぱり。
 知らず、オリビアは涙を流していた。目から流れ落ちてくるものを拭うこともせず、オリビアはかすれたか細い声で聞いた。

「本当、ですか……私のこと、好きだったって」
「好きだ。初めて会った時から好きだった」
「そう、なんですね……」

 嬉しい。嬉しいはずなのに、オリビアの目からはとめどなく涙が零れ落ちていって、止まらなかった。

「ロバートさんのこと、好きでした。今も好きです。あなたも私のことを好きでいてくれたって知って、すごく嬉しい。だけどそれでも、やっぱりこのまま付き合っていくことはできません……」
「お互いに、想っていても?」
「……でもあなたは、私がどれだけ好意を伝えても信じないで、カミラさんの話をずっと鵜呑みにしていたんですよね。『あえてそっけなくする』とは別の次元で、あなたの中で私の言葉は幼馴染のものよりも圧倒的に軽く扱われていた」

 それに、とオリビアは続けた。

「ロバートさんに会わないこの一ヶ月は寂しかったけど、すごく心穏やかに過ごせたんです。約束をなかったことにされたり、カミラさんとの仲の良さを見せつけられたりがなくなったことの方が、自分の中で大きかった。会える嬉しさよりもストレスの方が勝ってしまっている時点で、もうダメなんじゃないでしょうか」
「そんな……これまで散々君を傷つけて、嫌な思いをさせたこと、本当に悪かったと思ってる。君が別れたいというのも無理ないと思った。でも、このまま終わりたくないんだ。これからは君のことを大事にするし、蔑ろにされてるなんて絶対思わせないから、だから……」

 必死で言い募る恋人を前に、オリビアは無言で俯いた。
 ロバートがそこまで言ってくれるなんて、そこまで自分のことを思ってくれるなんて思わなかった。それは本当に、すごく嬉しい。主人公の思いは一方通行じゃなかった、彼の気持ちは自分にあったのだと思うと、いっそ胸が苦しくなるほどの喜びが込み上げてくる。

──それでもオリビアは彼を、多分信用できない。

 ごめんなさい。そう謝りながら、さらにオリビアは激しく泣き出し、しゃくり上げた。
 止めようと思ってもどうしても涙は止まらず、泣き続けるオリビアをロバートは心配そうな、焦ったような表情で、しかし何も言えずに見つめていた。
 ようやく落ち着いてくると、オリビアは目元を拭った。

「あなたのこと、信じられないんです。これまで散々約束を破られて、この前の誕生日のデートだって、私すごく楽しみにしていて……でも来なかったじゃないですか。無理なんです、もう……」

 気持ちが昂って、恨み言を吐いてしまった。やっと涙が止まったはずだったのに、再び目がうるんでくる。ロバートに鬱陶しいと思われたくなかったから、これまで彼のどんな振る舞いにも文句を言わないようにしていたし、泣きもしなかったのに。今まで積み重ねてきた我慢がどんどん崩れてくるようだった。
 そんなオリビアの様子を沈痛な面持ちで見つめていたロバートは、やがてゆっくりと口を開いた。

「……君が俺を信用できないのはわかったよ。その気持ちはもっともだと思う。でも……それでもやっぱり、これで関係が切れてしまうなんて嫌なんだ」

 オリビアの涙に濡れた瞳がロバートの静かな眼差しをとらえ、視線がかち合った。

「チャンスが欲しい。このまま恋人でいたいなんて都合のいいことは言わないから、俺が君の信用を得るため勝手に努力することは許してくれないか。……そして君には、できればその姿を見ていてほしい」

 ロバートの決意、もしくは必死の懇願を聞かされたオリビアはちょっと困って眉を下げ、視線を彷徨わせた後、小さく頷いた。
 自分が勝手に努力することを認めてくれ、なんて、そんなふうに言われては断れないだろう。それも、別れを切り出したとはいえまだ気持ちを十分に残している自分の恋人に。多分それをわかってそんな風に言ってくる彼は少し卑怯だなと思う。

「……わかりました。それなら、いいです。でも私があなたをまた信じられる時が来るとは、正直なところ思えません。もし来たとして、それがいつになるかもわからないんですよ?」
「いいよ、チャンスがもらえただけで十分だ。ありがとう」

 そう言って、彼は嬉しそうに、少し歯を見せて笑った。オリビアが恋をしたあの日の笑みを思い出させる、けれど格段に甘い表情。ああ、彼のこの笑顔は今、オリビアだけのものなのだ。そう感じた。
 残念ながらそれを素直に喜べる状況には、今はないのだけれど。
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