大好きな恋人が、いつも幼馴染を優先します

山科ひさき

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「……それで、どうしてうちまでいらっしゃったんですか?」

 我に返ったオリビアはとりあえず話を聞くことにしたものの、玄関で話し込むわけにもいかない。どこかに場所を変えることを提案し、二人は近くの喫茶店に来ていた。

「どうしてって、君が会いに来ないからだろ。むしろこっちが聞きたい。どうして急に会いに来なくなった?」

 不機嫌そうなロバートの態度を見て、オリビアは不思議に思った。
 急に会いに行かなくなったことは確かだけれど、それは一ヶ月前からのことだ。問いただすにしても、どうして今なのか。
 ただ、これ以上質問に質問で返しても話が進まないと思い、素直に答えた。

「ちょっと、考えていたんです。私たちの今後について。本当にこのまま付き合ってていいのかなって」
「なっ……」

 ロバートは愕然として言葉を失っているようだった。今日会った時から顔色が悪いとは思っていたが、さらに血の気が引いて蒼白になっている。
 こちらから別れ話を切り出されるというのは予想外だったのだろうか。彼の反応を意外に思いながら、オリビアは続けた。

「だって私たち、二人きりのデートもほとんどしたことないですし……恋人らしいこと、何もしてないですよね? いつもカミラさんのことを優先してばかりで。このまま付き合っていくのは厳しいし、意味もないんじゃないかと思ったんです。正直言うと、今日来てくれたのも意外でした。もう別れたつもりでいるのかと思っていたので」
「別れてない! そんなわけないだろ、勝手に決めないでくれ」
「勝手に思い込んでいたのはごめんなさい。あの、それじゃあ改めて言うんですけど、私たち、別れませんか……」

 とうとうはっきり言ってしまった。反応が怖くて顔を伏せていたけれど、ちらりと視線を上げて相手の反応を伺う。
 ロバートは血色をなくしたまま、怖いくらい険しい顔でオリビアを見据えていた。まるで睨んでいるかのように強い視線を向けられ、オリビアは再び視線を下げた。

「別れないぞ、俺は。……どうしてそんなことを言い出す? 俺に飽きたか。他に好きなやつでもできたのか。だとしても関係ない、別れるなんて許さない」

 語気を荒くするロバートにオリビアはビクリと肩を震わせる。
 このような怒りを向けられたことは今までなかった。というより、強い感情を向けられること自体がなかったように思う。彼が別れをあっさり受け入れると思っていたオリビアにとって、このような反応は予想外だった。

「そんな……どうして、そんな風に言うんですか。私たちこれまでだって恋人らしいことなんてしてこなかったし、そもそも……あなたは私のことなんか好きじゃなかったでしょう」

 自分でそう口にしておいて、胸がぎゅっと握りつぶされたような痛みを覚えた。
 こんなこと、言いたくなかった。それも本人の前で言葉にするなんて、惨めで仕方ない。
 ロバートの方を見れば、何か呆然としたような様子で、小さく呟いた。

「なんで……」

 オリビアは眉をひそめた。
 なんで、って。まさかロバートがオリビアを好きじゃないってことが、オリビアに知られていないとでも思っていたんだろうか。さすがに、オリビアはそこまで鈍感な人間ではない。ぞんざいに扱われればそれと感じ取る程度はできるつもりだ。

「わかりますよ、そんなの。むしろ、あんな風に露骨な態度をとられてわからない方がおかしいです」

 苦笑して、付き合ってきた半年の間にあった出来事を並べてみせた。
 「私も仲良くしたい」と言ってカミラが付いてきた初デートから始まり、カミラの都合でデートが中止になったり、カミラがついてきたりで二人きりで出かけたことはほとんどない。二人で演劇を見に行こうと話していたのにその演目はつまらなかったとカミラが口を出し、結局なぜかロバートとカミラが二人で別の劇を見に行ったという摩訶不思議な一件もあった。極め付けは、楽しみにしてくれと言われ浮かれていたら一日待ちぼうけを食らわされた、オリビアの誕生日だ。

 ここまで露骨に態度に表されてるのに、自分が好かれてるなんてうぬぼれることはさすがに無理です。そう言ってオリビアは悲しげに笑った。
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