大好きな恋人が、いつも幼馴染を優先します

山科ひさき

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 楽しみにしていたデートが幼馴染の荷物持ちとやらでドタキャンされてしまい、「埋め合わせをする」という話だった次のデート。現れたロバートは、予想の範囲内というべきか、ショートカットの活発そうな女性──例の幼馴染である──を伴っていた。
 正直そんなに期待もしていなかったけれど、当然のごとく幼馴染と二人で待ち合わせ場所に来る恋人を見るとやはり暗い気持ちになった。私との約束なんて重要なものだとは思ってないんだろうけど、でもそれにしたって。
しかし、そのような感情を悟らせないように笑顔を作る。

「ロバートさんとカミラさん、こんにちは。えっと……カミラさんは、どうしてここに?」
「今日、二人はケーキを食べに行く予定なんでしょう? ちょうど私もそのケーキ屋さんに行ってみたいと思ってたからついてきちゃった!」
「そう、なんですか……」

 オリビアの微妙な反応に気づいたのか、カミラは表情を曇らせた。

「ごめんね、迷惑だったかな? そうだよね、せっかくのデートなのに私なんかいたら邪魔か……」

 ものすごく邪魔です。迷惑です。
 ……と言いたいところだが、そこまで率直に言ってしまえば悪者になるのはこちらだ。なんとかやんわりと、しかし確実にこちらが感じている困惑や不快感をアピールしたいところである。

「いえいえ、迷惑なんてことは。ですけど……」

 貴重なデートなので二人の時間を大切にしたい旨を続けようとしたが、パッと顔を明るくしたカミラの「本当? よかったー!」という声に遮られる。

「もしかしたらお邪魔虫なんじゃないかって思ったけど、そう言ってもらえると安心するよ。遠慮なくご一緒させてもらうね」
「そうだよ、全然迷惑なんかじゃない。むしろ人が多い方が楽しいしな!」

 そう言ってカミラに笑いかけたロバートの姿を見て、オリビアは自身の敗北を悟った。

「そうですね……人が多い方が、楽しいですよね……」



 新しく出来たケーキ屋は外観、内装共に可愛らしく、若い女性客で賑わっていた。メニューに目を通せばどれも美味しそうで、オリビアはやや気を持ち直した。思い描いていたようなデートにはならなかったけれど、お店は素敵だし、これはこれで楽しめばいい。というか、そうとでも思わなければ気力が持たない。

「うわー、全部美味しそう! 迷っちゃうな」

 楽しそうに、目を輝かせてケーキを選ぶカミラ。ロバートもその隣で一緒のメニュー表を覗き込む。
 どうして恋人のオリビアを差し置いて、二人が隣同士の席に座っているのだろうか。解せない。というかちょっと距離が近すぎるのでは。湧いてくる様々なモヤモヤを、オリビアは心を無にしてやり過ごす。

「オリビアはどれ頼むか決まったか?」
「あ、私はこのイチゴの乗ったのにしようかと……」
「おお、うまそうだな。で、カミラはまだ決まらないのか?」
「うーん、このタルトと桃のムースで悩んじゃって。どっちも美味しそうで決められないんだよね」

 カミラは苦悩の表情でメニュー表をじっと眺める。しばらく待っていても全く決められる様子がない彼女を見て、ロバートは呆れたようにため息をついた。

「まだ決められないのか?」
「えー、だってー」
「仕方ないな。じゃあ俺がムースの方を頼むから、カミラはタルトを頼んで半分ずつ食べればいい。そうすれば両方食べられるだろ」

 その提案に「いいのっ!?」と一転して顔を明るくしたカミラとは対照的に、オリビアは愕然として目を見開いた。
 信じられない。二人で違うケーキを頼んで半分こして食べるなんて、まるっきり恋人同士のようではないか。恋人のオリビアが目の前にいるというのに、他の女性とそんな風に親密に振る舞うなんて。
 二人は衝撃のあまり固まっているオリビアのことなど気にもならないようで、店員に注文を伝えると「楽しみだね」と笑いあっている。

──うう、ダメージが大きい。もう極力ケーキを味わうことに集中して、食べ終わったらさっさと帰ろう……。

 もはやオリビアは、いかに自分の心を守りつつ今日のデート、といっていいのかもよくわからない外出を終えられるかに考えをシフトさせていた。
 二人の姿をなるべく視界に入れないように店内の可愛らしい内装を眺める。幸い二人は主人公に話を振ったりなどしてこないため、それでケーキが運ばれてくるまでの時間をやり過ごすことができた。

「お待たせいたしました」

 三人の前に、繊細に飾り付けられたケーキが置かれる。オリビアが頼んだイチゴとホイップクリームがたっぷりのったスポンジケーキはとても美味しそうだったが、彼女の気持ちを浮き上がらせるほどの効果はなかった。
 一人黙々とケーキを口に運ぶオリビアの対面では、ロバートとカミラがお互いに注文した分を分け、「おいしいね」と笑いあっている。
 小さくため息をつくと、近くの客の話し声が耳に入ってきた。若い少女二人がなにやらこちらをチラチラと見ながらささやき合っていて、声を潜めているつもりのようだが、オリビアにはかなりはっきりと聞こえていた。

「ね、あのテーブルの三人、どういう関係だろうね」
「思った。あの二人はケーキとか交換してたし、恋人っぽいよね。なんかいちゃついてるし」
「だったらもう一人の女の人、完全にお邪魔虫じゃない? 居心地悪くないのかな」

──そうですよねー、そう見えますよねー。

 素知らぬ顔で紅茶を飲みながら、オリビアは内心で呟いた。
 でもあなた方が恋人同士だと思っているその二人、実はただの幼馴染なんですよ。そしてなぜか二人についてきているお邪魔虫はそこの男の恋人なんですよ。
 なんて、言いに行くわけにもいかないし、仮に言っても信じてはもらえないんだろうけど。
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