【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)

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第6話 ②

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 ジルさんの手には前回渡したアルペンファイルヒェンシクラメンの鉢が握られていて、そのアルペンファイルヒェンは見るからにしおれていたのだ。

「ど、どうしたんですか?! ジルさんもアルペンファイルヒェンも元気がなさそうですけど!」

 しおれているアルペンファイルヒェン同様に、ジルさんの表情もしょぼくれている。いつもキリッとしているのに、まるで怒られた犬のように耳が垂れている幻が見える。

(あ、今日は花じゃなくてケモミミの幻影だ)

 ジルさんはおずおずと私に鉢を差し出した。

「すまない……その、君に言われた通り世話をしていたのだが……何故か段々花に元気がなくなってきたんだ」

 私は申し訳なくするジルさんから鉢を受け取ると、アルペンファイルヒェンの様子を見る。

(おかしいなぁ。アルペンファイルヒェンは一週間やそこらでしおれる花じゃないんだけど……)

「鉢はどんなところに置いていましたか?」

「……ああ、日当たりが良い場所と聞いていたので、窓際に置いていた」

「部屋の温度はどれぐらいですか?」

「20度ぐらいだな」

「なるほど。もしかすると水切れを起こしたのかもしれませんね。しばらくお預かりしてもよろしいですか?」

「……む。良いのか?」

「大丈夫ですよ。そんなに手間ではありませんから」

 アルペンファイルヒェンが好む温度は15度から20度の間だ。
 もしかすると部屋の温度がギリギリ20度のところに、暖房の魔道具が近くにあってかなり温かいのかもしれない。

「今から復活させる作業をしますけど数時間はかかるので、明日もう一度起こしいただいてもいいですか?」

「すまない。助かる。明日は花束を買いに来る予定だから、その時一緒に持って帰ろう」

「わかりました。では明日お待ちしていますね」

「ああ、明日もよろしく頼む……ん? あの花は……」

 何かに気付いたらしいジルさんの視線を追うと、そこには花瓶に飾られているマイグレックヒェンすずらんがあった。

「随分可愛らしい花だな。あの花も売り物だろうか?」

「あ、あの花は売り物ではないんです。マイグレックヒェンという花なんですけど、花、茎、葉など全体に毒があるんです。毒は水にも溶けだすので、水替えした水すら危険ですから」

「……そうか。それは残念だ」

 ジルさんはマイグレックヒェンに毒があると聞いてガッカリしている。確かに見た目は清楚で可憐だものね。

「気に入って貰えたのに申し訳ありません」

「いや、君は悪くない。ではまた明日」

 ジルさんを見送り、閉店作業をした私は預かったアルペンファイルヒェンを温室へと運んだ。

「元気になってくれるかな?」

 私はアルペンファイルヒェンの花や茎を傷つけないよう、花の茎を集めて一つにまとめる。
 それから束ねた花の茎を、上に向けたまま紐で固定すると、若干ぬるめの水をたっぷりと与え、大きめのバケツの中へと入れる。
 下から溢れた水はバケツの中にためて、上からも下からも水が吸い上げられるようにしておくのだ。

 この状態で朝まで置いておくと元気になっているはずだ。もしこの方法でもダメなら根腐れか他に原因があるかもしれない。

「どうか元気になりますように」

 枯れたらきっとジルさんガッカリするだろうから、アルペンファイルヒェンには何とか頑張って貰いたいと思う。
 


* * * * * *



❀花の名前解説❀
(店名だけど)プフランツェ→植物
ブプレリウムとヒペリカムはそのままです。
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