Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第十六章

第七話 俺は悪夢でも見ているのか?

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 ~ソロモン視点~



 くそう、くそう、くそう。いったいどうなっている。なぜ俺は人間如き下等生物相手に、ここまでやられている。本当にあいつは人族なのか? 化け物め。

 とにかく、魔王が復活するまでは時間を稼がなくてはならない。魔王さえ復活すれば、俺の代わりにあの男を倒してくれる。

「まだだ……俺は倒れてはいない。残念だったな。お前の攻撃はその程度だったと言うわけだ。ワハハハハハ!」

 笑い声を上げながら強がる。これであいつが少しでも臆してくればいいのだが。

「まさか、お前が回復魔法を使えるとは思っていなかった。これならわざと生かすようなことをしなければよかったよ。はぁ、面倒臭い」

 シロウの言葉に鳥肌が立ってしまった。

 あの男、電撃を操作して俺をギリギリ生かしていたのか。そんな芸当、俺にはできないぞ。

 いや、きっとあいつの嘘に決まっている。俺を動揺させて隙を作ろうとしているに決まっている。

「ワハハハハハ! そんな見え見えの嘘で俺を動揺させようとしてもムダだ」

「なら、もう一度試してみるか? 俺が先ほどのことを再現してやるからよ。もし、ギリギリ生きていたら、俺が言っていることを信じてくれないか?」

「ワハハハハハ! 面白い。やれるものならやってみろ!」

 くそう。余裕そうな顔をしやがって。

 あの顔、どう考えても本当のことを言っているようにしか見えない。

 完全に俺とは、天と地ほどの実力に差がありすぎる。俺は喧嘩を売ってはならないやつを相手にしてしまった。

「ウォーターボール!」

 シロウが水の魔法を使い、空中に水の球体を出現させる。

「アイスクエストーズ」

 アイスクエストーズ? なんだその魔法は?

「ファイヤーボール」

 ファイヤーボールだって! そんなバカな! あの大きさはどう考えてもデスボール並みじゃないか。まるでプチ太陽みたいだ。

 その火球が夜空に上がり、周辺を明るく照らしている。

「ダストデビル」

 シロウが次の魔法を唱えた瞬間、塵旋風が現れる。その風は俺を攻撃することなく止まっていた。

 分からない。俺にはやつのやろうとしていることが、何一つ理解できない。

 ゴロゴロゴロゴロ!

 いつの間にか雲が雷雲に変わっている。まさか、雷雲を作ったと言うのか!

 空気が冷たい。やつの雷撃がくる。

「これで最後だ! サンダーボルト」

 シロウが魔法を唱えた瞬間、落雷が発生した。そして水球に当たると、雷を吸収する。

「あとは食塩をもう一度混ぜて完成だ」

「まさか! 落雷を撃つために、ムダに幾つもの魔法を使ったのか!」

「そうだが?」

 やつのセリフを聞いて、言葉が出なくなる。

 今の魔法の連発で、相当な魔力を消費しているはずだ。普通の人間なら、魔力が枯渇してぶっ倒れる。それなのに、やつはピンピンとしていやがる。

「普通に雷の魔法を使うよりも、自然の力を利用して雷を生み出したほうが、連発して使えるからな。それに、今の落雷はこの水球に向けて落としたものだけではない。お前の魔道砲を見てみろ」

 魔道砲を見るように言われ、周辺を見る。すると、せっかく作った魔道砲が全て破壊されていた。

 あまりにも凄すぎて全然気づかなかった。

「さぁ、もう一度再現してやるよ」

 くそう。どうする、どうする? 挑発してしまった以上、やつは必ず雷を纏った水を俺に放ってくる。そうなれば、俺はもう一度死にかけることになる。何か方法はないのか。

 思考を巡らせるも、中々いいアイディアが思い浮かばない。

 例え何か閃いたとしても、やつは簡単に突破しそうだ。

 まだか。まだなのか。

 顔を見上げて要塞の上に置いてある三つの水晶を見る。すると、球体にヒビが入っているのが見えた。

 封印が解け始めている。あともう少しで魔王が復活する。

 おそらく、あいつはもう一度再現しようとして、俺を瀕死に追い込むだろう。そうなれば、もう一度回復魔法を唱えて一度は耐えることができる。その間に魔王が復活すれば、俺の勝ちだ。

「さぁ、もう一度同じことができるのなら、やってみるがいい。できるものならな」

 口角を上げて可能な限り強がりを見せる。

「ああ、やってやるさ」

 シロウが電気を帯びた水球を放つ。

 間違いなく、やつの攻撃は俺にヒットするだろう。だけど、そう簡単にはやられるつもりはない。

「デスボール!」

 巨大な火球を生み出してシロウの水球に対抗した。

 やつの説明はほとんど理解できなかったが、強い炎なら水を消すことが可能だと言うことはなんとなく分かった。なら、灰すら残らないこの灼熱の炎なら、やつの水球を消すことができるかもしれない。

「この俺を舐めるな!」

 デスボールがやつの放った水球に接触する。その瞬間、水蒸気が発生して周囲を覆う。

 周辺がぼやけてしまうな。これではよく見え……。

「ぎゃああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 突然身体中に、痺れるような痛みを感じた。我慢をすることができず、絶叫する。

 そんなバカな! 俺のデスボールが負けたというのか。

 身体が痺れて感覚がないが、夜空を見上げていることは理解した。

 本当にあいつは電撃をコントロールしている。当たれば即死レベルの上級魔法なのに。

 俺にはこんな芸当は決してできない。

 だけど、これで時間稼ぎにはなった。あとは回復魔法を使って、一旦振り出しに戻るだけ。

「メガヒール!」

 もう一度回復魔法を唱える。そして力を振り絞って立ち上がると、シロウを睨み付けた。

「ハハハ! まさか本当に同じことを再現できるとはたいしたものだ。だが、俺が敢えて攻撃を受けているとは思ってもいないだろう」

 とにかく今は、一秒でも時間が欲しい。魔王復活までの時間さえ確保できれば、俺の野望は半分成し遂げたようなもの。

「本気で俺を倒せれると思っているのなら、やってみせろ。まぁ、ムリだろうがな」

 言葉を吐き捨てながらもう一度宝玉を見上げる。そして口角を上げた。

 月の光を浴びた水晶が光り、球体は一気に割れる。

「ワハハハハ! 残念だったなぁ。魔王復活だぁ!」
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