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第十六章

第六話 ミラーカが言っていたけど、やっぱりソロモンは弱いな

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 トーマンを倒し、俺たちはソロモンのいるアジトに向かっていた。

 日が沈みつつある。おそらく敵の拠点に着くころには夜になっているだろうな。

「シロウ、あれを見てください」

 マリーが空を指差す。

 顔を上げると、大きく目を見開いた。

「満月だ!」

 月は満月になっていた。

 新月から満月になるまでは、二十七日から二十九日はかかる。今回は二十七日で満月になってしまった。

 ソロモンも満月ということに気付いているはずだ。今頃、魔王復活の準備をしているに違いない。

「みんな急ぐぞ」

 彼女たちに声をかけ、走る速度を上げる。

 しばらく走っていると、建物のようなものが見えた。

 あれがソロモンのアジトか?

「ウソ! ワタクシがいたときはただの洞窟でしたのに、まるで要塞ではないですか!」

「ソロモンのことだ。魔王を復活させるためにアジトをリフォームしたのだろうね。あいつの建設レベルは途轍もない。一夜で城を作ることだってできる」

 驚くスカーヤさんを見て、ミラーカがソロモンの技術力の高さを教える。

 敵のアジトの前に来ると、俺たちは一度立ち止まり、建物を見た。

 いたるところから大砲の発射口が見え、存在感をあらわにしている。

「魔道砲か。ざっと見ただけでも十門以上あるな」

「どうだ? 怖気ついたか?」

 要塞の上から男の声が聞こえ、顔を上げた。

 三十代から四十代くらいの白髪の男が、俺たちを見下ろしている。

 あの男がソロモンなのか。

「魔王復活のときは来た! 今夜、この世界は恐怖に包まれることになる。だが、そのためにも、邪魔な存在であるお前たちを全力で叩きのめす」

 ソロモンのやつ、余裕そうに振る舞っているけど、ギリギリであることを自らバラしているぞ。全力と言う言葉を使った時点で、追い詰められていることが手に取るようにわかる。

「なぁ、ソロモン。そんなに強がるなよ。お前が追い詰められていることは、話しかけてきた時点で気づいた。魔王復活なんて諦めて、大人しく水晶を渡すんだ」

「は、はぁ? ぜ、全然追い詰められてなんかいないし、余裕だから。何勘違いしているんだ?」

 やつの言葉を聞いて、ため息を吐きたくなる。

 めちゃくちゃ追い詰められているじゃないか。図星を刺されて語彙力が低下しているぞ。

 最終決戦だと言うのに、妙に緊張感に欠けるじゃないか。

 こんなやつ、さっさと倒して宝玉を取り返すとするか。

「今からそこに行くから待っていろよ。それじゃあ、お邪魔します」

「ふざけるな! 誰が俺のアジトに入っていいと言った! 魔道砲起動! あの男を打ち倒せ!」

 魔道砲が動き、全ての大砲が俺に狙いを定める。

「ウォーターポンプ!」

 ソロモンが呪文名を口にした瞬間、発射口から水の魔法が発射される。

 一斉射撃か。水圧で俺を押し潰そうとしているな。なら、俺の魔法で屈辱を味合わせてやろう。

「ファイヤーボール!」

 魔法を唱え、敵の放った水と同じ数だけ火球を生み出す。

「さて、軽く遊んでやるとするか。行け!」

 生み出した火球を、大砲から放たれた水の塊に当てる。

「魔道砲を見て気でも狂ったか! バカめ! 炎が水に勝てるはずがないだろうが!」

「ソロモン、お前は本当に魔学の範囲でしか知らないみたいだね。シロウのファイヤーボールは普通の魔法とは違うよ」

 罵倒するソロモンを見て、ミラーカが言い返す。すると、水は水蒸気となって周囲に散らばった。

「何だと! そんなバカな!」

「俺には魔学を超えた異世界の知識がある。それを利用すれば、魔学の常識なんて簡単に覆せれるさ。何なら、教えてやろうか?」

「そんなもの誰が聞くか!」

「分かった。そんなに聞きたくないのなら、無理やりにでも聞いてもらおう。燃えている物体の発熱量が、水の冷却効果を上回っていたのなら、水のみが蒸発し、炎は消えることなく残り続けることができる。だから、俺の火球は消えないと言うわけだ」

「聞きたくもないことを無理やり聞かせやがって! なら、こいつならどうだ! サンダースネーク!」

 ソロモンの言葉が引き金となり、大砲から蛇の形をした雷が放たれる。

 雷か。悪いけど、それもエレファントエンペラーとの戦いで対処できているんだよな。

「アクアガード」

 水で身体を覆い、わざと敵の攻撃を喰らう。

「アハハハハハ! バカめ! 水は電気をよく通す! 水の防御壁を使ったところで、お前は無傷とはいかない」

「プッ、アハハ。アハハハハ!」

「アハハハハハハハハ!」

「そ、そうだよね。ソロモン。くくく、ふ、普通はそう考えてしまうよね。アハハ!」

「み、皆さん。お気持ちはわかりますが、流石に笑うのはどうかと……だ、ダメですわ。わたしもが、我慢が……キャハハハハ!」

『ワウーン! ワウーン!』

 後方から、双子の巫女以外の笑い声が聞こえる。キャッツは俺の前でお腹を見せて背中を地面に擦り付けていた。

「ど、どうして皆さん笑っていますの?」

「ワタクシにはわかりませんわ」

 コヤンさんとスカーヤさんが困惑している声が聞こえてくる。

 マリーたちは、一度この光景を見ているからな。強気になっているソロモンを見て、可笑しくなったのだろう。

「その理由はもうすぐわかりますよ。コヤンさん、スカーヤさん」

「死ね!」

 ソロモンの言葉と同時に、雷撃の蛇が俺に直撃した。

 うーん、やっぱり絶縁とまではいかないから、静電気程度の痛みはあるな。だけど、かなり威力を軽減させている。

 さて、それじゃあ何倍にも威力を上げて、お返しするとしますか。

 電気を帯びている水の膜を身体から離す。そして水を球体にした。

「バカな! 電撃を受けて普通に立っていられるわけがない!」

 ソロモンが驚くと、俺は小さく息を吐く。

 俺が使っているものは、天然の水だと言うことに気付いていないみたいだな。

「当たり前だ。俺が使ったこの水は不純物の混じっていない純水なんだからな」

「純水であろうとなかろうと、水は水だ! 電気を通さないなんてあり得ない!」

 こいつも固定観念に縛られるタイプの男か。こういうやつは、中々成長しないんだよな。

「エリーザ」

「はーい。シロウさんはとわたしは心で繋がっていますわ。ですから言わなくともわかります」

 エリーザが食塩の入った瓶を取り出すと手渡してくれた。

 瓶を受け取ると、蓋を開けて中に入っている食塩を水の中に入れる。

「これでよし。それじゃあお返しするからな。俺からのプレゼントを受け取ってくれ」

 食塩の入った水をソロモンに向けて放つ。

「くそう! あの水に電撃を放て! サンダースネーク!」

 俺の攻撃に対抗しようとして、魔道砲から電撃が放たれる。しかし、俺の水はその電撃さえも吸収して威力を上げていた。

「クソ、クソ、クソ! ぎゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 ソロモンは俺の攻撃を受けて地面に倒れた。

「め、メガヒール!」

 回復魔法名が聞こえると、ソロモンはよろよろと立ち上がった。

 あちゃ、こいつ回復魔法が使えたのかよ。だったらわざと命を助けるようなことはしなければよかったなぁ。

 人の身体に電流が流れると死亡率が高い。人は身体に0・1アンペアの電気が流れる程度であっても、命を落とす可能性が非常に高い。

 だから電流を制御して、身体の側面に電気が流れるように調整した。体内にある脳や心臓といった重要な臓器にショックを与えないように地面に逃がせば、電撃を受けても即死することはないからな。

 仕方がない。今度こそ倒すとしよう。
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