Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳

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第十六章

第八話 魔王が復活したけれど、まぁ、なんとかなるだろう

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 ~シロウ視点~



 月の光を浴び、割れた宝玉を見ながら俺は拳を握った。

 間に合わなかったか。だけどこうなることも可能性の一つとして考えていた。なら、前もって考えていたプランに移行するだけだ。

 割れた宝玉の中から闇色の球体が現れると、それらは一つとなり、人の形を形成していた。

 赤いロングの髪に、頭からは漆黒の角が生えている。そして露出している肌には何やら紋様が描かれていた。

 女?

 胸の膨らみからして女で間違いない。だけど、それは想定外だ。

 うーん、どうしよう? 俺の中では男と戦うことを想定していたからな。相手が女性だと、妙に戦い辛い。

「ふわぁ~。誰だい? ワタシの眠りを妨げるのは?」

 魔王は目覚めたばかりだからか、片手で口元を隠しながら大きなあくびをした。

「俺だ。お前を目覚めさせたのはこの俺、ソロモンだ。さぁ、魔王よ! 今すぐここにいる人間を駆逐して、この世界から人間を消し去れ!」

「い・や」

 ソロモンの言葉に、魔王は二文字で拒否する。

「え?」

 今、この魔王は人間を滅ぼすのを拒否したのか? どうなっている? 魔王は魔物を生み出して、人々に恐怖を与える存在じゃないのか?

「ワタシはまだ眠い。お願いだからあと三百年は寝かせてくれ」

「ふざけるな! それが魔王か! 魔王なら魔王らしく、さっさと人間共を血祭りに上げないか!」

 予想と違った展開に思わず感情が掻き乱されたのだろうな。ソロモンのやつ、マジギレしている。

「そんなに眠たいのなら、俺が目を覚まさせてやる! デスボール!」

 ソロモンが魔王に向けて特大の火球を放つ。

「ワタシは寝起きで機嫌が悪いんだ。これ以上怒らせないでくれ。ウォーターボール」

 魔王がソロモンの攻撃に対抗して水球を放つ。火球と水球が触れた瞬間、一瞬にして巨大な火球は蒸発してしまう。

「ワタシの機嫌を損ねた君が悪いんだ。恨むのなら自分を恨んでよね」

 魔王が一瞬にして姿を消すと、ソロモンの目の前に現れる。そして彼女は男の頬を引っ叩いた。

「ぐああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 その瞬間、ソロモンは要塞に吹き飛ばされて壁に激突した。かなりの負荷が身体にかかったのだろう。彼は悲鳴を上げると、目や鼻、耳や口といったところから大量の血液を噴き出す。

 たった一発のビンタであの威力。この魔王と戦うことになったのなら、梃子摺てこずるかもしれないな。

「まさか一発のビンタも耐えることができないなんてね。魔族も弱くなったものだ。当時の魔族は、これくらいでは死ぬことがなかったと言うのに。だけど、これでうるさいのはいなくなった。ワタシはもう一眠りするとしよう」

 魔王は俺たちを気にすることなく、その場で横になる。

「お前、本当に魔王なのか?」

 眠りたいのならそっとしておけばいい。そうすれば、後三百年の間、彼女は眠り続ける。それなのに、俺は疑問に思ったことを口走ってしまった。

「またワタシの眠りを妨げようとするバカがいるみたいだね。何? そんなに死にたいの?」

 彼女は、瞼を閉じたまま返事をした。

「まぁいい。今のワタシは人間には興味がない。魔族は衰退した。それなら彼らに劣る人間はもっと弱い。ワタシは強者と戦えればそれでいい。だから封印される前は、強者を誘き寄せるために、建前で世界征服を実行していた」

 強者を求めている。それが魔王の目的。なら、俺は一刻も早くこの場を離れた方がいいだろうな。彼女が気づく前に、ここから遠ざかるとしよう。

「一応脅威は去ったと考えよう。みんな、撤収だ」

 マリーたちに帰ることを告げると、俺は魔王から離れようとする。

「待て!」

 一歩足を踏み出したところで、魔王が足を止めるように言ってくる。しかもかなり殺気を放ちながら。

「な、なんだよ。弱者には興味がないのだろう。弱い者イジメをしたところで、魔王のプライドを傷つけるだけだぞ」

「弱い? 何を言っているんだい? さっきまでは寝ぼけて気づかなかったけど、今ならわかる。君からは途轍とてつもないほどの、強者のオーラを感じるよ。ワタシと一戦するに相応しい。安心しろ。最初から本気は出さないよ。君の実力に合わせてワタシも段階的に力を上げるからさ」

 振り返ると、魔王は地面に立っていた。そして俺を見つめてくる。

 くそう。平和に解決できると思っていたのに、結局はこうなってしまったか。だけどどうする? マリーたちまで巻き込んでしまう。彼女たちでは、どうやっても太刀打ちできない。

「君のような男が考えそうなことくらい想像がつく。彼女たちの身を案じているのだろう? なら、巻き込まれないところに逃げるまでは、待っていてやるよ」

「分かった。マリー、みんなを引き連れてマーカラさんのいる町まで避難してくれ。あそこなら、被害に遭わないはずだ」

「わかりましたわ」

「スピードスター」

 仲間たちに俊足の魔法をかける。

「さぁ、行きますわよ。ワタクシに付いて来てください」

 マリーがクロエたちを引き連れてこの場から離れる。俊足魔法のスピードスターは、足の筋肉の収縮速度を上げることで、時速五十六から六十四キロメートルで走ることを可能にする。

 数分もあれば、彼女たちは町に着くだろう。

「あのスピード、中々やるな。あれなら軽く自己紹介をしている間に、安全圏まで逃げ切ることができるだろう」

 魔王は右手を前に出して翳すと、黒い光が集まる。その光は剣の形になると、実体化した。

「ワタシの名は魔王アッテラ。強者を求め、常に己を磨き上げる者」
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